第20話 パーティ
「転生者か……。確かに、ヤバそうな項目には覚えがあるが、まさか魔物になるとはな……。」
魔物……と聞いて、アカネが少し視線を落とす。自分がそれと紙一重の存在だとでも思っているのだろうか。
それを察してか、イッセイが彼女の頭をぽんっと撫で、入れてくれたコーヒーを、おれたちの前に置いた。
キールの埋葬のあと、すぐにおれは、通常通り仕事に戻った。彼の形見を受け取ったからにはというのもあるが、蓄えもなく、くよくよと過ごす事が許される様な身分でもなかった。ギルドは、件の魔物を警戒して、一時的に職員の数を増やして派遣したりしていたが、表層にはもう居ないと判断すると、それも引き上げた。
そして今日は、以前3人で遺跡へ、という話の続きをしに、イッセイ診療室を訪ねて来ていた。
外では子供達の楽しそうな声がきゃっきゃと聞こえる。
「それにしても、空間魔法だなんて。魔術じゃほとんど再現出来て無いのに、羨ましい!」
気持ちを切り替えられたらしいアカネは、スキル振り間違えてるでしょ、主人公かよっ。と、またもや神だかなんだかわからない存在に文句を言った。
確かに、スキルはかなり強力そうなものが揃っていた。
それは必要ポイントマイナスの項目を選び、手持ちを増やした結果でもあるのだが。
魔獣の姿を思い出す。あのチグハグな印象を受けた腐った胴体。そして、切断されても動き、キールを襲った、ヌメヌメとした長い管の付いた首。最後に見たあれが、あの魔獣の元々の姿だったのかもしれない。
気が狂った様な、甲高い笑い声が甦えり、ぞくりと背筋に冷たいものが走る。いくら強力なスキルを貰えるとなっても、ああはなりたく無いなと思った。
おれは、嫌な気分を打ち消す様に、コーヒーに口をつける。イッセイの淹れてくれたそれは、驚くほど美味く、もしかすると物凄く高いものなんじゃ、とまじまじと見つめ、そして、ゆくっくりと味わった。
おれたちは話を一旦打ち切ると、外の空き地に来ていた。
まだ遺跡に潜ったことのない2人に、実力を見たいと、3ヶ月ほど先行したおれが先輩づらしたからである。
準備が終わったというイッセイは、要所に鉄のプレートを仕込んだ革鎧に、身の丈ほどある剣……いや、ただ断面を平たくした金属の棍棒のような物を持っていた。
それを、さほど太くない腕でブンブンと振り回しており、その様子はバッドを持たせた不良の様でもあった。
彼は、おれが鞘のついたままの大振りなナイフを構えたのを見ると、ニヤリと笑って、物凄い勢いで距離を詰めてきた。
身体強化スキルの補正によるものか、普段の様子からは想像できない速さで面食らうが、直ぐに切り替えて、振り下ろされた鉄棍を、ナイフで受け流しながらかわす。
ズンっと音を立てて地面を抉る攻撃は、重さはあるが次に繋がらない。と思ったがイッセイは武器をあっさり手放すと、腰を捻って蹴りを飛ばしてきた。とっさに身体
をそらすが、顔を掠る。痛みで頭が痺れるが、構わず片足を軸にして回転し、イッセイ横腹に向けてナイフを振るった。グラッと重心が崩れるのを感じた。
おれは盛大に空振りし、地面に顔面を打ちつける。すかさずイッセイが武器を持って、俺の背中に突き立てた。
アカネは、いかにも魔術師らしい、つまりはいつも通りのスタイルで対面した。媒体は使わないらしく無手である。
彼女は、ナイフを構える、顔を腫らしたおれに向かって徐に両手を広げた。
おれは警戒し、彼女の所作に注視する。
パンッ。っと乾いた音がした。彼女が両手を打ち鳴らすと、凄まじい閃光が発生し、おれは視界を奪われた。
“異常を……”
おれの能力が何か言うがはやいか、誰かにガシッと首を掴まれた。グエッと変な声が出て、息がつまる。僅かな間の後、視力が回復する。グイッと顔を近づけたアカネが、ニンマリと笑った。
「目が付いてるなら、まず潰すでしょ。」
そして頭を吹き飛ばして終わりよ。などと物騒な事を言う彼女の攻撃手段は、圧縮したエネルギーを飛ばすというごく単純なものらしい。もっと炎とか雷とか派手に操って戦うもんじゃ無いのか、魔術師って。
「バカね、そんな危ないもの安易と扱えるわけないじゃ無い。そもそも効率が悪くてすぐガス欠になるわ。ちなみにこれも。」
と言って、彼女は、打ちひしがれるおれの側にしゃがみ込むと、腫れた頬に手を当て、癒した。
浄化と癒しの力を合わせもつその炎は、少なくない魔力を必要とするらしい。吸血鬼としての能力が弱まる昼間でさえ、並以上の魔力量を誇る彼女でも、戦闘でほいほい使えるものではないらしい。
「あと、イッセイさんがやってた操作の魔術も使えるわ。……あそこまで器用にじゃないけど。」
少し離れたところで、今の催しを見ていた子供たちに、わいのわいのとやられているイッセイを見た。
「アカネに本を借りて練習してたんだ。つっても足元を隆起させて、バランス崩させるくらいしか出来ないがな。」
おれは、踏ん張った足を浮かせられた結果、ああなった様だ。
そうは言っても相手と組み合いながらもそれができるのは、アカネに言わせると“器用”ということらしい。
アカネも時間を貰えれば、土の壁を作ったりは出来ると、少し悔しそうに言った。
魔力を練って物質に染み込ませ、それを操作する。以前キールの真似をして、魔物からとった粘液を、ミトと2人でくねくねとやって遊んだ事を思い出した。
それは中々の集中力が必要で、戦闘で使おうとは思わなかった。
「まあ、こんな感じだけど、パーティメンバーとしてどうだったかしら。先輩?」
斯くして、おれの先輩づらは1日と保たなかった。
おれは、期待を寄せてくれていたキールに謝り、心の中で泣いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます