第13話 魔法

3日間の講習を終えた後も、集団での採集に参加を続けた。


「お前、鑑定が使えるんじゃなかったか?」


ある日そう言われたが、能力を使ったところで、見た素材の情報が簡単に表示されるだけである。

しかし、キールが言うには、視界入る範囲の欲しい情報を感知できる、便利なものらしく、首をかしげた。

結局、熟練度が足りないのか、そもそも“鑑定”とは違うものなのか、現段階では、採集に対してはあまり役に立たたなかった。


後日、ギルドに紹介してもらって部屋を借りた。

風呂やキッチンなどはなく、最低限以下の狭い部屋は、一時保管の素材ですぐに埋もれていく。

おれはそうやって、なんとか地道に稼ぎを増やしていき、マジックバッグを担保にして、分割払いにしてもらった部屋の頭金も、どうにか払えそうだと安堵した。




「なんだか地味ね。」


彼女は、ジョッキで注文した飲み物をグビグビと喉を鳴らして飲み干すと、近況について話していたおれに言った。


その日も、早朝から昼ごろまでの採集を終えて、帰還の記帳のために受付へ行くと、そこにアカネが居た。

赤の刺繍の入った上質なローブを着た彼女は、いったん伝言だけを残すつもりで寄ったらしいが、そこへ当のおれが現れたので、ちょうど良かったと言って微笑んだ。


「イッセイさんから連絡があって、遊びに来ないかって。今日ってつもりじゃなかったんだけど、でも時間があるならこのまま行かないかしら。」


特に予定もないので了承する。

そうして、「おい、やるなあ」とか「めっちゃ美人っすね」などと言って、ニヤニヤとおれたちを遠巻きに見るキースとミトを無視してギルドを出た。



「冒険者っていうからには、もっとスリル溢れる生活をイメージしてたのだけれど。」


飲み物のお代わりを注文し、生地に具材を乗せて焼いた料理に手をつけていく。

そんな生活、身も心も持たないだろと笑って返す。

久しぶりに会った彼女は、疲れているのか、少し顔色が良くないように見えた。少し痩せたか?

そう言われた彼女は、体調を自覚しているのか、それが良い意味で言われたのではない事に複雑な顔して、あなたもね、と言った。


「引き締まったと言ってくれ。」


そう言って力瘤を作る。仕事の後に、毎日訓練を行っていることもあって、最近は体に筋肉がついてきているのを実感していた。

それを見たアカネは、バカねと笑って食事を続けた。



イッセイは遺跡管理課の施設から西に行った地区で働いているらしい。

頭の上で、ひょこひょこと揺れる大きなリボンを見ながら、彼女に着いていく。


「魔術と魔法の違いって知ってる?」


「……人が使うのが魔術で、魔獣が使うのが魔法だろ?」


キースが、以前説明してくれたことを思い出す。


「簡単に言うとそうね。自然や魔力を持つ生物が発生させる現象を魔法というの。それを人が解析したものを魔術って呼んでいるのね。どちらも魔力によって生じる現象であるから、一般的には同じような認識らしいのだけど。」


つまりスキルっていうのは、魔法という括りになるわね。と彼女は続ける。


「そして魔術は、学べば誰にでも使える可能性があるものなの。」


彼女の働く魔術課は、そういった魔法や魔術の研究もしているらしい。

まだ日が浅い彼女自身は、計測の手伝いや書類の整理などの雑用がメインだが、月に1度か2度程度、魔力の提供を依頼されるという。

研究室に設置されているという大型の魔道具は、メンテナンスなどで一度停止すると、再起動の際に大量の魔力を必要とする。

そんな出力を出せる魔術師は、高レベルの冒険者か貴族くらいしか居らず、通常は高額なスターターを購入するらしい。アカネはそれの代わりが出来るということで、重宝され、そこそこいい額の給金を貰えているという。

そして彼女は仕事の合間に、借りた資料で魔術の勉強をしているらしい。

先ほど昼食を食べ終わった後の僅かな時間にも、パラパラと本を捲っていた彼女の真剣な表情を思い出した。


生まれ持った時から、その原理を理解せずとも使用出来るスキル。それらを解析して使える様にした魔術。

“不死”という能力も、いつかは解析され、使えるようになる時がくるのかもしれない。それはあまり歓迎されることではないように、おれは感じた。

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