第12話 ナイフ
初日の指導を終えたおれとミトは、次の日から早速素材採集の仕事に参加した。
ギルドに併設された宿舎で共に寝起きし、朝食用に買っておいた硬くなったパンを飲み込みながら、2人で集合場所に向かうと、十数人の冒険者が各々装備の確認をしていた。
表層で行うこの仕事は、ギルドからベテランの監視役が数人派遣されており、戦闘に自信がないものは、彼らに着いて遺跡を周るようだ。参加は自由な様で、決められた時間に行くと適当に班分けされるらしい。
集団で行くため、取り分は減ってしまうが、安全に仕事ができるのはありがたいと思った。
空が明るくなってきた頃、キールが現れて一同を見渡した。おれたちを見つけると手招きして、自分の近くにいるよう指示し、それから全員へ号令をかけると遺跡へ出発した。
周囲はまだ暗く、しかし遺跡が放つぼんやりと淡い光の中を、キールに着いて歩いて行く。しばらくて視界が開けた広場のようなところに入ったところでキールが立ち止まると、着いてきた冒険者が徐ろに散って行った。
採集ポイントのひとつらしく、2人だけ残されたおれたちもキールに促され、最近崩れたと思われる建物のひとつに近づいた。
そこは夜のうちに魔獣同士が争った跡らしい。キラキラと光を反射する、人の腕ほどある半透明の青い棘のようなものが散らばり、時には硬い石にか刺さったりしている。
1人の、冒険者というより、店先で花を売ってそうなおさげの女性がその棘を拾い集めていた。
おれも習って、雷を纏う魔獣の体毛らしいそれを瓦礫の下から拾い上げるとバックパックにつっこんでいく。
ミトは、なぜか女性に声をかけ、拾うのを手伝っていた。
「コウスケさんは、武器何にするんすか?」
精力剤の原料になるの、とおさげの女性が教えてくれた、魔虫の体液が固まってできたらしい琥珀色の物体を、ガリガリと削って容器に詰めていると、キールに殴られて頭にコブを作ったミトが聞いてきた。
今日の採集のあと、キールが武器を見てくれることになっている。
因みに彼女は“縄”が使えるらしいっす。とも彼は言う。
縄てなんだよ。と思いながら考える。
「おれは……ナイフかな。」
武器と言われてイメージしたのは刀や剣である。しかし実際に扱うとなると、刃体の長い武器を振り回すのは少し恐ろしいし、手入れも大変そうである。
こちらから、敵をばっさばっさと倒しに行く必要があるわけではない。最低限、襲ってきた敵を捌ければいいのだ、昨日のキールのように
キールが、ナイフであっさり猫を切り捨てた時の事を思い出す。
「それにしても、あれ、どうやってるんすかね。」
ミトが少し離れた所をスタスタと歩くキールに視線をやる。
キールは歩きながら小さなナイフを取り出しすと、それを進行方向の宙に向かって投げた。
ちょうどそこへ何かが物陰から飛び出してきて、姿が現れると同時に投げたナイフが突き刺さる。
ドサッと白と黒の乳牛のような模様をした、大きめの兎が倒れた。
キールはそれを、明らかに容積が合わない小ぶりの鞄に、シュッと仕舞った。
気配を探る能力のようなものを使っているのか、先程から相手の姿が見える前に、そこに出てくることが分かってるかのように対処をしていく。
おれは、彼のその鮮やかな闘い方を見て、自分もあんな風にいつかなりたいと思った。
オレもマジックバッグ買おうかな。と全く違うことを思ったらしいミトが呟く。お前はまず、その袋を一杯に出来る様に努力しろ、と彼のぺしゃんこの背負い袋を見ながら思った。
採集した素材を、ギルドのカウンターに並べて行く。
それを職員が手際良く確認し、買取が終了した。
最初に拾った棘に、そこそこ良い値が付いたりしたが、安くない手数料を引かれた査定額は、宿舎や食費、消耗品などの事を考えるとそこまで多くはなかった。
手数料は固定のものとパーセントで引かれる2種類あって、後者のほうは、キールのような、新人を世話する人間を雇ったりするのに使われるらしい。
半日の作業にしては多いし、そういうことであるなら文句は出ないが、これだと装備を新調したりは当分難しいな……。
「素材はある程度纏まった数で売った方が、買取額が良くなるぞ。細々した物を持って来られるより、仕分けや保管の手間が省けるからな。」
むむむっと本日の報酬と睨めっこしていると、キールが助言をくれる。
なるほど、しかしそうなると素材を一時保管しておく場所が必要である。雑魚寝のスペースしかない宿舎には置いてはおけないし、預けるとなるとそこで費用が発生してしまい意味がない。
そうして、考えた結果、少し無理をするが部屋を借りることにした。
武器はギルドの訓練場で何種類試した結果、やはりナイフにすることに決めた。
ミトは大剣にこだわっていたが、預けてあった剣はキールの手配によって勝手に売却され、その費用で妥当な大きさの剣を半ば強引に買わされていた。
ただ、先輩に選んで貰ったということが嬉しかったようで、すぐにそれを気に入り、腰にぶら下げた様子を鏡で何度も確認していた。
おれも、キールの物と形状の似た、使い込まれた古い大振りのナイフを見つけて購入し、そのズシリと重い感触をしばらく堪能した。
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