第11話 遺跡
街の北側……最初に受付を行なったギルドのちょうど反対側に位置する場所にある、遺跡管理課と呼ばれる施設に訪れたおれは、受付をした後、建物の裏手の指定された場所で待機していた。
しばらくして、使い込まれた艶のある黒っぽい皮の防具を身につけた、暗い茶色の髪の男が現れて、ジロリとおれを一瞥した。
「お前がコウイチだな。そしてあれが……」
少し遅れて到着したらしい、身の丈ほどの大剣を背中に背負った青年がこちらに歩いてくる。その足取りはふらつき頼りなく、剣の先が地面に接触してガリガリと音を立てている。
「ミトだな。……お前はとりあえずその剣を置いてこい。」
ミトと呼ばれた青年は、着くなりそう言われ、ショックを受けた様に目を丸くした。
おれは、例のパンフレットを思い出し、そしてそこに描かれたイラストを見て笑っていた彼女のこともそっと思い出した。
ミトはしぶしぶと、大剣を引きずりながら元来た道を引き返し、受付でそれを預けて戻ってきた。
少し元気を無くした彼は、よろしくお願いします、と小さく言っておれの横に並ぶ。青みがかった色の髪に、どこか賢そうな顔立ちをした青年である。
「教育担当のキールだ。2人は最低でも3日間、俺の班にはいっての活動になる。今日は案内だけだが、明日からは通常通り、夜明け前の集合になるからな、遅刻するなよ」
ジロリと睨まれたミトは、はぃと弱々しく返事した。
おれたちは、まず、用意してきた道具を見せるように言われた。
ナイフや槌、防具も一度外して床に並べると、それをキールがひとつひとつチェックしていく。
チェックを受けている間、ちらりとミトの持ち物を見た。たいそうな武器を持ってた割には、中古で揃えたおれの物と比べても、ずいぶんくたびれている様にみえる。何となく、あの大剣にお金を注ぎ込んんだのだろうと思った。
「ふむ、まあいいだろう。ミト……お前は賢そうな顔をしてるが、バカだな。」
とりあえずは問題なしと判断されたらしい。そしてミトはバツの悪そうな顔をした。
「遺跡に入るのに特に許可はいらねえが、出来るならここで記帳していけ。帰還予定を過ぎても戻らなかった時、捜索をして貰える。」
おれたちは、施設内をざっと案内をしてもらった後、受付で説明を受けると、いよいよ遺跡へと足を踏み入れた。
2日前、あの丘から見た街の背後、この北端の施設から外に向かって遺跡は広がっている。
遠い昔に栄えた都市の残骸は、そこに眠る失われた技術や、濃い魔力によって発生する魔獣の素材によって人々を惹きつけ、この街の大きな資源となっている。
「深いとこまで行かなきゃそこまで危険はねえ。この時間になるとほとんど残っちゃいねえが、早朝にくれば金になる物がそこそこ集まるぞ。」
風化し、自然に侵食されつつある街の中を歩く。
おれとミトはその神秘的な雰囲気に気圧され、緊張しながら後に続いた。
キールは時々、小さな何かの爪や鱗、色のついた石なんかを拾い上げ用途や価格を説明してくれる。
「あの、キール先輩。武器、持ってこなくて良かったんすか……?」
「いらねぇよ、俺がいるしな。それに、まともに扱えない奴が持ってても邪魔なだけだ。万が一の時は……走れ。」
小さいが獣のものと思われる爪なんかをみて、不安になったミトが聞くと、キールは後ろを振り返って顎をしゃくり、そう言った。
そこには街の中心と、先程までいた北端の施設に建てられた2つの塔が見えた。
これを目印にすることで、この遺跡群の中でも自分の位置を把握できるらしい。
「この塔が見える範囲が表層、そしてその先は深層と呼ばれてる。お前たちは間違っても行くなよ。」
生きて帰れないからな、と脅してくる。
塔とは反対側の、地の果てまで続くかのような遺跡群、その終わりは霧のかかった様に見通せない。
底のなしの洞窟に踏み入ったような感覚を覚え、身震いした。
「……ちょっと長居しすぎたな、出てきたか。」
そう言ってキールは大振りのナイフを腰から抜く。
そこには、見覚えのある猫がいた。
自分の鼓動が早くなるのを感じる。おれは思わず後ずさった。
初めて見たらしいミトは、背負い袋を前に持ってくると、盾にして構える。
キールはおれたちの反応を横目に見ながら、飛びかかってきた猫をあっさりと切り捨てた。
「穢れ猫と呼んでる。暗くなると湧いてきやがるんだ。明るいうちでも、影になった所でたまに出るから気をつけろ。……まあ、大したやつじゃないけどな。びびったか?」
キールはおれの方を見てニヤリと笑った。
おれは以前襲われた時のことを話しておいた。
「そりゃあついてなかったな、遺跡から離れた所ではあんまり出ないはずなんだが。まあ夜になる前に引き上げる事だな。今日もここまでするぞ。」
キールの指示により遺跡をあとにする。
そうして、1日目の指導は、無事終了した。
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