第21話 最強の運動神経

蒼たちがサッカーコートに入るとすでに一回戦の相手である3-A の姿があった。先輩たちが蒼を確認するとその中からキャプテンらしき巨漢が蒼に近づいてくる。

「よう、二年坊主ぅ、エインちゃんは俺がもらうぞ?」

「お手柔らかにたのんます。」

蒼はそれだけ言うとくるりと後ろを向き自分のポジションであるFWの位置まで歩いていく。

その時、体育館の方から二人の美少女が走ってくるのが見えた。

蒼はその二人を見た瞬間顔を青ざめる。

「おーい!こっちは勝ったよー!!」

「蒼様!頑張ってください!!」

「...。」

そう、二人の美少女とはヒナとエインである。

「「「「潰ぅぅぅぅす!!!!!」」」」

あ、これやばいかもしれない。3-Aの先輩方は目を光らせ殺意むき出しである。

「はい!ではこれより一回戦を始めます!各自ポジションについてください!」

あれは!救世主(うちの担任)!!こんなところでも俺を守ってくれるとは。一生ついていきます。

先生の一声で先輩たちはすさまじいやる気を漲らせたままポジションの位置まで歩いていった。

「両クラスとも準備はいいですね?」

蒼はごくりと唾をのむ。

照りつける太陽の光が肌を焦がしていくのを感じた。

「では、試合を始めます!」

そして今戦争の開始を知らせる笛が鳴った。



ボールは3-Aから。キックオフすると先ほどの巨漢がボールをもってこちらに切り込んでくる。

「ぎゃはははは!!ラグビー部で鍛えた俺のスピードを思い知れ!!」

そして蒼の眼前まで来てもスピードを緩めることはない。

観戦しているエインとヒナを含む全員が次の光景を想像し目を閉じた。

「...え?」

どこからかそんな声が漏れる。

エインとヒナも恐る恐る目を開けると自分たちの目の前に広がる光景にただ唖然としていた。

「ど、どうなってんだ。」

蒼をぶっ飛ばす予定であった巨漢本人でさえもその状況に理解が及んでいない。それはコート上にいる全員も同じなようで皆が皆ぽかんとしている。

「ふー、かっくいい。」

コート上でただ一人状況を理解していた魁人は感嘆の声を漏らした。

その状況とは

「な、なんでてめえがボールをもってんだあ!?」

ボールが蒼の足元にあることである。

「あ!そうだ!」

観戦していたヒナが突然何かを思い出す。

「どうされましたか?」

「蒼はね!運動神経だけなら最強なんだ!」

エインが尋ねるとヒナはエインの方に顔を向け興奮したように話し出す。

「そ、そうだったんですか。」

エインはそんなヒナに気圧されながら自分の胸あたりがチクチクするのを感じた。

ヒナがエインに熱弁していると周囲の熱量が急激に上がっていくのを感じた。

二人も周りの視線が集まる方へと顔を向け同じように驚く。

蒼が一人、また一人と相手をドリブルで抜き去っていたのだ。

その俊敏さと鮮やかさに周囲にいるものすべてが息をするのも忘れて見入ってしまっていた。

この試合の行く末の確信とともに。



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