第20話 もう一つの戦場
「はあ、はあ。エインよ、学校では俺と一緒に寝てることは言わないでくれ。」
なんとか戦場から逃げ切りグラウンドに到着した蒼はつかんでいたエインの手を離す。
エインはすぐに両手を後ろに隠すと、蒼に握られていた方の手をもう片方の手で大事そうに包んだ。
「どうしてでしょうか?私たちは」
「いいから!お願いだから!エインに俺の命がかかってんだからあ!」
蒼が必死の形相でエインを説得していると続々と他クラス、他学年の生徒たちがグラウンドに集まり始める。
蒼が異変に気付いたのはそれからほんの数秒後のことであった。
蒼を取り巻く雰囲気が明らかにおかしい。妙にというか大胆に隠す気もなく殺気立っている。
「蒼様、何かされたんですか??」
さすがのエインも異変に気付いたようで蒼を心配するそぶりを見せる。
なぜか先ほどより殺気が増しているんですが。
「ちっ。」
しまいには通りすがりの初対面のやつにまで舌打ちをされてしまった。
蒼が冷や汗をかいていると屈強な体つきの三年の男子生徒が5人ほどこちらに向かってくるのが見えた。
奴らは蒼の眼前まで来ると立ち止まって腕を組む。
「ぶっ飛ばす。」
そして蒼を見下し吐き捨てるようにそれだけ言うとすぐに帰っていった。
「なんだったんだよ。」
「おおーい、蒼ー。」
蒼がため息をついていると魁人とヒナがグラウンドにやってきた。
「はあ、なんだよ。」
「結構やばいことになってんな。」
蒼が鬱陶しそうにすると魁人は包み隠さずそう言った。
「やっぱ、わかるか?」
「ああ、なんでだろうな。」
魁人は珍しく真面目に相談に乗ってくれた。やはり持つべきものは親友だ。
「それは魁人が学校中で魁人のクラスに勝ったクラスの中から一人だけエインを一日ホームステイできるって言ったからでしょ?」
突然のヒナの暴露で空気が一瞬凍る。
「「「...。」」」
蒼とエインが魁人の方を向く。
魁人は下手な口笛を吹いて顔を明後日の方向に向けていた。
「てんめえええ!なにしてくれてんだあああ!!!!」
蒼の怒号がグラウンド中に響き渡り合戦ののろしとなった。
群青高校のビッグイベントの一つ、球技大会。
生徒たちがクラスで団結し一つの目標に向かって汗を流す姿は毎年輝いて見える。
さて、今年はというと...
「どけや!こらああああ!!!!」
「じゃますんじゃねえええ!!!!」
照りつける太陽の下、一つの不純な目標に向かって野郎どもが汚い汗を拭きだし体をぶつけあっていた。
「おい、どうすんだ?これ。」
「どうするも何も。俺たちが優勝しなきゃだろ?」
「ぐっ、やっぱそうだよなあ。」
蒼は木陰で涼みながらグラウンドを駆け回る筋肉だるまたちを見て、その形相に吐き気を催す。
「一年のころはさんざん手抜いたんだ。そろそろいいんじゃねえの?」
「...図ったな、くそ御曹司。」
その時、蒼たち2-C クラスの一回戦の開始を知らせるアナウンスが入った。
二人は立ち上がると蒼は魁人を睨み、魁人は蒼にほくそえんでグラウンドに歩いて行った。
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