第17話 浴室の天使

「...。」

「...。」

シャワーの音だけが響く浴室で蒼はバスタオルを体に巻いたエインの髪を洗っていた。

髪を手で触るとその繊細さに、美しさにじかに触れることの危うさを感じた。

エインの艶のある髪は光を反射し、よりつややかになっている。

「じゃあ、シャンプーつけてくぞ。」

「は、はい。よろしくお願いします。」

蒼はシャンプーを手でこすり泡を立てるとその泡を慎重にエインの髪につけていく。

「ふぅ。」

鏡越しに見えるエインはとても気持ちよさそうにしていた。

対して蒼はというと、

「すぅぅー、こぉぉぉ...」

とてつもなく緊張していた。

エインの前では普段通りの自分を演じているが、実は足はがっくがくの腕ぶるっぶるである。

「蒼様、今日はありがとうございました。」

「え!?あー、どういたしまして。」

突然のエインからのお礼の言葉に、蒼は一瞬声が裏返るもなんとか平静を保っているていを取り繕う。

「明日からはまた頑張りますので。」

そう意気込むエインの背中はすこし落ち込んでいるように見えた。

大方、俺をこき使ってしまったことに後ろめたさを感じているのだろう。

「はあ。」

蒼はため息をついて立ち上がるとシャワーを持ち、おもむろにエインの頭に水をぶっかける。

この時ばかりは蒼の緊張はなくなっていた。

「ひゃっ、何するんですか!痛っ。」

「あのなー、もっと頼れって、俺、エインに言わなかったか?」

蒼は目をつむったまま蒼の方に顔を向けるエインの額を人差し指で軽く小突いた。

「うぅ。」

エインは涙目になりながら突かれた額を両手で押さえており、蒼はそんなエインの泡がまだ残っている頭を優しく撫でる。

そしてこの前より強く、優しく、エインという一人の少女にこう言った。

「困ったら俺を頼れ。」

エインは目にかかる泡など無視して瞼を上げた。

一番に見えたのは蒼の笑顔だった。

エインは一瞬ボケーっとしてから少しうつむく。

「ん?どうかしたか??」

「いいえ、なんでもありません。体はなんとか洗えそうなのでもう大丈夫です。」

「そっか、じゃあ俺出るわ。」

エインが蒼の顔も見ずにそれだけ言うと、蒼はすたすたと浴室から出ていった。

エインは蒼が浴室から出ていくのを確認するとそっと鏡を見つめる。

「ほんとにもう...」

鏡には見たこともないほど顔を赤くしたエインの姿があった。




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