第15話 筋肉痛という魔物


二日間にわたる自主練を終えた翌日の土曜日の朝、エインはパジャマ姿のままソファに突っ伏し、動けないでいた。

時刻は朝の10時ごろ、蒼とエインが起床してからかれこれ4時間が経過している。

普段であればエインはてきぱきと家事をこなしている時間だった。

「エイーン。ただいまー。」

「あ、お帰りな、いっ!!」

蒼を迎えに行こうと立ち上がろうとしてよろけたエインを蒼は慌てて支える。

「ちょ、動くなって。ひどい筋肉痛なんだから。」

そう、彼女、エイン・フォーゼは人生で初めての筋肉痛を経験していた。

原因は明らかにここ二日間続いた球技大会の自主練だろう。

「す、すみません。」

「いいって。それより湿布買ってきたからこれ貼っとけ。」

「ありがとうございます。」

蒼は申し訳なさそうにするエインに湿布を渡す。

エインはその湿布を受け取ると太ももあたりに張ろうと腕を伸ばした。

「痛っ。」

腕を伸ばした瞬間にエインの腕に激痛が走る。

「貼ってやるから、どこらへんが痛い??」

人生初の筋肉痛に涙目になっているエインを見かねて蒼が助け舟をだした。

だがその助け舟はエインの次の言葉で沈没船へと姿を変えることになる。

「ふ、ふとももあたり、なんですけど..」

「まじかよ...。」

今理性と野生の戦いのゴングが鳴った。


「ぜー、はー。」

ぎりぎりの戦いだった。

かろうじで理性を保つことができた蒼はエインの太ももと腕に張ってある湿布を見て自分の戦果をたたえる。

「あ、ありがとうございました。」

エインも相当恥ずかしかったらしく、湿布を張り終えるまで一度も蒼の顔を見ずにただ顔を赤くしながらうつむいていた。

「はー、はー、どういたしまして。じゃあ、俺は昼飯作ってくるから。」

蒼はがくがくの足に活を入れるとフラフラしながらキッチンへと向かった。

冷蔵庫から余っている食材などを適当に取り出して即席のチャーハンを作り、皿に盛りつけて食卓に持っていく。

エインが生まれたての小鹿のようなふらつき具合でなんとか椅子に座ったのを確認してから蒼も椅子に座る。

「いただきまーす。」

「い、いた、むう。」

エインは手を合わせようとするも筋肉痛のせいで手が上がらない。

「いただきます。」

手を合わせるのは諦めて口で誠意を表明しスプーンへと手を伸ばす。

チャーハンをすくうと、口にもっていく...が、すんでのところで手が止まってしまった。

エインの顔を見ると涙目になっている、蒼は嫌な予感を体全身で察知した。

「痛くて、食べられないです。」

「ですよねーー。」

蒼は頭を抱えながら野生との第二ラウンドに備えた。


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