第14話 大切な人

「以上。」

先生はHRを終わらせると何か資料のようなものを抱えて急いで教室を出ていった。次の授業の準備だろうか。

先生という職業は生徒が思っているよりよほど忙しい仕事のようだ。

蒼が欠伸をしながらそんなことを考えていると授業の開始を知らせるチャイムが鳴る。

蒼は一度思考を頭から切り離してから現代文の教科書を開いた。


それから授業をいつも通りこなして放課後の時間がやってきた。

今日から二日間、各クラスはそれぞれ来週の月曜日から始まる球技大会に向けての居残り練習が許されている。

蒼たち2-C も例にもれず自主練を開始するところだった。

「じゃあ、俺グラウンド行くから。」

「はい、行ってらっしゃいませ。」

蒼はエインの体操服姿とポニーテールに顔を少し赤らめながらエインにそう言うと回れ右をしてグラウンドの方へと走っていく。

「よし。」

エインは蒼が走っていくのをしっかりと見送ってから自分も回れ右をして体育館の方に向かった。


「ふー、疲れました。」

バスケの自主練習が蒼よりも早く終わったエインは蒼よりも先に自宅に帰ってきていた。

蒼を待とうか迷ったが、それで蒼が申し訳なく思ってしまうことは目に見えていたので先に帰ることにしたのだ。

「蒼様のご自宅、こんなに広かったんですか。」

エインはソファに座った状態でリビングを見渡す。

「...。」

エインは少しぼーっと遠くを眺めてから、黙って洗濯物を取りに行った。

布をこする音でさえもなんだかとても大きな音に感じる。

そんなことを考えながら洗濯物もたたみ終え、また暇を持て余す。

「料理作らなきゃ。」

エインはおもむろに冷蔵庫まで行くと中から中華麺と野菜を取り出す。

それから取り出した野菜をそれぞれ適当に切っていった。

「料理ってこんなに楽しくないものでしたっけ...」

エインはふと普段は料理が好きな自分が料理を楽しんでいないことに気づく。

「そういえば、私が料理を好きになったのってここに来てからでした。」

蒼の喜ぶ姿が嬉しくて、もっと蒼に褒められたくて、そんなことを考えながらする料理はエインにとって今まで経験したことがないほど楽しいものだった。

「...はやく、帰ってきてください。」

「ただいまーー。」

エインが言葉を漏らすのとほとんど同時に玄関のドアが開いた。

エインは慌てて口を手で押さえる。

蒼に聞かれただろうか。そんなことを考えていると蒼がリビングにひょこっと顔を出した。

「エイーン、ただいま。」

「お、お帰りなさいませ!」

エインははっとなって、すぐに口から手を離す。

「おいしそうな匂いがするなあ。今日の晩飯何??」

「あ、焼きそばです。」

「あー。腹減った。エインー、早く食わせてー。」

ああ、これだ。エインは自分の心が満たされていくのを感じた。

「はい、もう少しでできますよ。」

エインは蒼に笑いかけ、急いで野菜をフライパンに入れた。


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