第13話 帰宅部のプライド


エインの甘えん坊化から一夜が明けた。

結論から言うと朝起きたらエインはいつもの調子に戻っていた。

以前より距離感が縮まったとは感じるが蒼からしたらそれはうれしい変化であって悩むようなものではなかった。

二人は普段通りに身支度を整え、学校へと向かう。外に出るとエインは家の中より蒼との距離をとった。一応そういう配慮はしてくれるらしい。

「蒼様、部活とはなんでしょうか?」

「部活??いきなりどうしたんだよ。」

登校中、エインがいきなり蒼にそう尋ねてきた。

「昨日クラスメイトの方々に囲まれていた時に、女性の方から部活に入りませんか、とお誘いを受けまして。」

なるほど、部活の勧誘か。

「んー、部活っていうのはな、スポーツとか文化とかで好きなモノが同じ人たちが集まって頑張るところ。」

蒼は自身の持つ少ないボキャブラリーを駆使してなんとか思考を言葉に変える。

「そうなんですか。蒼様も何かの部活に入られているのですか?」

「ああ、俺は帰宅を愛する男だからな。帰宅部ってのに入ってるんだ。」

蒼はただ真実を語った。胸を張って堂々と。それがどういう意味を持つものなのかを悟られないように願いながら。

「でしたら、私も帰宅部に入ります!入部届というものをいただきましたのでこれに記入して提出すればよろしいんですよね??」

エインは鞄の中から入部届を取り出し蒼に見せた。

「ちょいそれ貸してみ。」

蒼はそれをエインから半ば強引に奪うとその場で折り紙を始める。

「え?え?蒼様??」

エインは蒼の奇行にただ困惑していた。

「うし、できた。ふんっ!」

蒼は紙飛行機を作り上げるとその場で回れ右をして紙飛行機を勢いよく投げ飛ばす。

幸か不幸か、今日は全く風が吹いていなかったため飛行機は投げ飛ばされた方向に飛び去って行った。

「何してるんですか!蒼様!!」

エインは怒りをあらわにする。

蒼はそんなエインの両肩に手を置いた。

「いいか?エインよ。帰宅部だけはあんな紙なくても、というか何もしなくても入れるんだ。だからエインは何もしなくていいから!あとは俺に任せろ!!」

蒼の鬼気迫る勢いにエインは何も言い返せずただ頷いていた。

「そ、そういえば、エインは球技大会どの種目に参加するつもり??」

蒼は勢いに任せ急激な話題転換を試みる。

「え?球技大会、とは何でしょうか??」

するとエインは思いのほか新しい話題に食いついてくれた。

「男子はサッカーとバスケ、女子はバレーとバスケのそれぞれでクラス内でチームを作って学年で競い合うっていう、うちの高校の催し物のこと。ちなみに俺はサッカーに出るつもり。」

「そんな催し物があったんですね。いつ開催されるんですか??」

エインの目が輝いている。以外にもエインは体育会系なのかもしれない。

「来週の月曜。今日にでも先生から話があると思うけどな。」

「楽しみです!私、頑張ります!」

エインはガッツポーズをとり声高らかにそう宣言した。

「おう!頑張ろうな!」

蒼は輝くような笑顔でガッツポーズをエインに返す。

決してそれが話題転換の成功を喜んだものだとは気取られることなく。

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