第11話 くっつきメイド
今蒼はとても悩んでいる。
どの教科のテストのどの問題よりも難解で解決の難しい問題に...
「ふーふー。」
現在、蒼は自分の家のリビングにあるソファに腰を下ろしていた。
隣ではすぐ近くでホットミルクを冷ますエインがいる。
そう、肩どころか蒼と体が密着するぐらい非常に近くに。
「え、エインさん??そんなくっつかなくても、もっとソファを広く使いませんか??」
「嫌です。」
ピシャリと会話のシャッターが閉じる音がする。
テストが終わり学校から帰宅した時から、なぜかエインはいつもより蒼とくっつきたがる。
何か話があるのかと話し始めるのを待っていても一向に話す気配もない。
今も蒼にくっついてホットミルクをこくこく飲んでいるだけである。
「あのー。エインさん??なんかあった??」
蒼はそんなエインに耐えきれず自分のできる最高峰の作り笑顔とともに尋ねた。
「...今日、蒼様は私を置いて帰ろうとしてませんでしたか?」
エインはホットミルクから目線を離すことなく、蒼の質問に質問で返す。
「それは、せっかくのエインが友達を作るチャンスを俺が壊すわけにもいかなかったからで」
そこで蒼は何かに気づく。
「もしかして、それで怒ってた??」
「怒っていたわけではありません。寂しかったんです。」
エインはマグカップを少し回して、とごった砂糖を溶かしている。
そして一気に飲み干すとマグカップを机に置いて蒼の方に顔を上げた。
「私は蒼様のメイドです。」
「ま、まあ、そうだな。」
突然のメイド宣言に蒼は思わず目線をそらしてしまう。
「私は蒼様のメイドなんです...だから、そばにいなくてはいけないんです。
置いていこうとか、そういうのは私がいらなくなってしまうまではしないでほしい、です...。」
「い、いや、いらなくなるなんてないから!エインに友達を作ってほしかった。ただそれだけだから!」
蒼は急にしおらしくなるエインに慌てながらどうにか弁明する。
「私は、蒼様がいいんです。蒼様のメイドでいたいんです!だからもう、あんな寂しいことはやめてください。」
エインは蒼の肩に額を置く。
「ああ、ごめん。」
蒼は一呼吸おいて微笑んだ。
エインが落ち着いたのを確認した蒼はピザのデリバリーを注文した。
エインが今日は蒼と離れたくないから料理もしたくないと断固として蒼の隣から離れなかったからである。
しばしの沈黙の時間が続いた。だがその沈黙は出会ってすぐのような気まずいものではなく、どこか心地の良い、落ち着くものだった。
二人はその間黙ってテレビを見ていた。その間も相変わらずエインは蒼にくっついている。
「お、ピザが来たか?」
そんな時間に終わりを告げるように無機質なインターホンの音が静かなリビングに響き渡る。
蒼がソファから立ち上がりピザを取りに行こうとすると、エインもまた立ち上がり蒼の後を黙っててくてくとついていく。
それからピザを受け取った二人はリビングへと戻るとテーブルの上にLサイズのピザ一枚を机に置いた。
「エインはそこで食うのか??」
「はい、今日はここで食べます。」
ピザを机に置き、蒼も自分の定位置に座るといつもは蒼と向かい合う形で座るエインが今日は蒼の隣の椅子に座る。
「そっか、じゃあいただきまーす。」
「いただきます。」
蒼は隣に座ったエインを見て微笑んでからピザへと手を伸ばした。
ピザを堪能した二人は後片付けをすませてから、学校の課題をリビングで終わらせる。
「んじゃ、俺風呂入ってくる。」
「はい、行ってらっしゃいませ。」
エインより一足早く課題を終わらせた蒼はそのまま風呂に向かった。
途中で後ろに振り返りエインを見ると、幸い風呂にまでついてくる気はないようでエインは黙々と課題に取り組んでいた。
蒼はほっと胸をなでおろすと、再度風呂に向かって歩き出した。
「ふいーーー。」
やはり疲れたときに入る風呂は最高だ。
蒼は濡れた手で前髪をかき分ける。
それにしても今日のエインは様子がおかしい。まったくどうしたものか。
「お、もうこんな時間か。」
物思いに更けているといつの間にか風呂に入ってから15分が経過していた。
蒼は体を洗おうと湯船から出る。
すると突然浴室の扉が勢いよく開いた。
「は!?」
開いたのは当然蒼ではない。犯人はぶかぶかの白いTシャツ一枚で身を包むもう一人の住人、エインである。
蒼の思考はこの急展開に追いつかずパニックを起こしていた。
「蒼様、お背中をお流しいたします。」
「え、エイン!?何してんだよ!」
蒼はなんとか声を絞り出した。
「蒼様のお背中をお流ししようと思いまして。」
エインは先程言った言葉をそのままリピートする。
「い、いいから!一人で洗えるから!」
「嫌です!!洗います!」
「ダメなもんはダメえええい!」
「ひゃあっ!」
蒼はいわゆるお姫様抱っこでエインを無理やり浴室の外までもっていくと優しくおろし、自分は急いで風呂へと戻っていった。
「もう...ずるいです。」
エインは顔を真っ赤にしてその場に立ち尽くした。
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