第10話 晴れのち吹雪
「おっしゃあああああああ!!!」
ミンミンとセミが鳴く昼間に、そんなセミの鳴き声などかき消さんばかりの歓喜の叫びがクラス中で飛び交っていた。
あるものは友人とハイタッチで、あるものはガッツポーズで自身の喜びを体全体で解き放つ。
蒼は静かながらも、周囲と同様に確かな喜びをかみしめていた。
そう、期末テストが、一週間と二日に及ぶ地獄の勉強会が終わりを告げたのだ。
後ろではエインがそんな周囲の反応についていけず戸惑っていた。だが嬉しくはあるらしく微妙にご機嫌である。
それから帰りのHRも滞りなく終了し、生徒たちがぞろぞろと帰る...と、思いきやこちらにやってきた。
その全員が俺を無視して後ろにいるエインのもとへと近寄っていく。
「エインさん!今からみんなで祝勝会やるんだけど来る??」
先頭で一番エインの近くにいたイケメンの男子がエインの机に両手を置き、エインを祝勝会とやらに誘いだした。
てか、祝勝会て。何に勝ったんだよ。
「エインさん、一緒に行こうよ!!」
「遊ぼ遊ぼ!」
そんなイケメン君の誘いに同調して周りにいた者もエインを誘いはじめた。
エインがこちらに視線を送っていることに気づいた蒼は、エインに行って来いという意味でそっと頷く。それを見たエインの頬が少しだけ膨らんだような気がした。
なぜか少し胸のあたりがチクチクしたがそんなことは気にも留めずに、蒼は魁人とヒナのところまで行き一緒に教室から出ようとする。
その時、ざわついたクラスの中で凛とした声が響き渡った。
「すみません、そこをどいてくれませんか?」
蒼にはこれが誰の声なのか一瞬でわかった。
蒼が声のした方向へと顔を向けると、エインが蒼と初めて会ったときのあの冷たい表情でイケメン君を見つめていた。
「急ぎの用があるんです。」
エインは短くそれだけを言うと、そこをどけと目で訴える。
「あ、あー、そうなんだ。ごめんね!」
エインはそんなエインの瞳に怯みささっと手をどけたイケメン君を一度も見ることなく、机の横にかけてある鞄を取ってとてとてと蒼の方へと小走りで近寄っていく。
「蒼様、帰りましょう。」
エインはいつも通りの笑顔で蒼を呼んだ。
「あ、ああ。」
蒼はエインの迫力に何も言えず、ただ彼女に従って教室を後にした。
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