第9話 冷やし中華


「そんな緊張すんなって。」

蒼は隣でぎこちなく歩くエインの頭にポンポンと手を置く。

「ううー、今日からテストだと思うとどうしても緊張してしまって。」

いつもなら蒼に頭を撫でられれば大抵のことは忘れて気持ちよさそうにするエインも今回ばかりはそうはいかないようだ。

なんせ今日から学生の宿敵、期末テストが始まるのだから。

蒼は一週間前のあの日、エインが人間だということに気づいたあの日の夜からの一週間を振り返る。

毎日日付が変わるまでエインの勉強に手伝い、二人で蒼のベッドに寝転がり泥のように眠る。

最初こそ緊張でなかなか寝つけなかった蒼も日に日に増す疲れには勝てず、気づけば美少女の隣でも問題なく爆睡できるようになっていた。

そんな過酷を極めた一週間を振り返っているといつの間にか学校についていた。

それから教室までまた歩いていき、魁人やヒナと話していると戦いのときは突然やってくる。

先生がテスト用紙を生徒の人数分抱えて教室に入ってきた。

後ろを振り返るとエインがカッチカチに固まっていた。

「テスト用紙を配るからもうしゃべらないようにー。」

蒼がエインに何か声をかけようとした瞬間に先生がクラス中に響く声で生徒全員に釘を刺した。

仕方がないので蒼も前を向く。

「うし。」

エインのことは心配だが、今はテストに集中しなければ。

蒼はそう意気込んで、配られてきたテスト用紙へと視線を落とす。



それから無事に三教科分のテストを終えた蒼とエインは12時前に学校を出た。

隣を見るとエインが朝とは全く別人のような足取りで歩いている。

「テストの出来はどう?」

「ばっちりです!」

蒼が尋ねるとエインは両手をグーの形にして胸の前に持ってきて頑張ったことをアピールしてきた。

「それはよかったな。」

「はい!あと二日、がんばります!」

「あと二日、か...」

蒼はあと二日エインとの地獄の勉強会があるのかと肩を落としてげんなりとしている。

「それにしても暑いな。」

蒼はこれ以上悩みたくなかったので、とりあえず話題を変えた。

「そうですね、昼食は冷やし中華にでもしましょうか。」

エインは悩み事などないかのように手で太陽を隠して空を見上げる。

その姿は通りかかるすべての人を魅了してしまうほど‎に魅力的だった。


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