第8話 槍振って愛高まる

「ふああ...。」

蒼は眠気をこらえきれず大きな欠伸をもらす。

外からはバイクや車のエンジン音が時々聞こえてくるが、人の声は一つとして聞こえてこない。

壁に立てかけている時計を見ると、時計の針は12時半を指していた。

そんな真夜中に蒼はエインと二人でソファに座りホットミルクを飲んでいる。

「ふああ...。」

隣では蒼の欠伸がうつったのか、エインも小さな口を開けてかわいらしい欠伸をしていた。

エインは蒼に見られていることに気が付くと顔を赤くして恥ずかしがってから、蒼の顔を見てごまかし笑いをする。

蒼はそんなエインを見て先ほどの修羅場を潜り抜けてできた傷を思う存分に癒していた。

一時間ほど前、蒼がエインをロボットだと勘違いしていた事実が露呈してからというもの、蒼は20分間ほどソファに頭をこすり続けていたのだ。

そんな蒼を見かねたエインが、しぶしぶ蒼を許したために20分間の土下座で済んだが、もしそうでなければ...

蒼はそこまで考えて、すぐに思考を放棄した。

「寒いですか??」

肩が触れ合うほど近くにいるエインが隣からぶるぶると震えている蒼を心配そうに見つめる。

「だだだだ、大丈夫!大丈夫だから!」

今触れている肩も、石鹸の香りが残るその銀髪も、蒼を見つめる綺麗な瞳も、すべてがエインという一人の人間の、美少女のものだと認識を強制的に改めさせられた蒼は

自分が思春期の男子高校生であることを再確認した。

「そろそろ寝ませんか?」

二人のマグカップが空になっていることを確かめたエインは時計を見ながら先ほどより大きな欠伸をしている。

「そ、そうだな、寝よう。」

蒼はエインの顔も見ずにあたふたとマグカップを片付けだした。

その時、マグカップを洗っていた蒼のパジャマの裾をエインがくいくいと引っ張った。

「今日も...その、一緒に寝ていただけませんでしょうか?」

「きょ、今日も!?今日はちょっと...」

こんな状態でエインと寝たら絶対に俺の中の何かがぶっ壊れてしまう。

蒼は今日の誘いを断ることを自分自身に固く誓った。

「昨日、蒼様と一緒に寝たとき、とっても安心したんです。おびえていた自分が嘘だったみたいに。なので、また蒼様と一緒に寝たいなあ...なんてダメですよね。」

こっれは無理だわ!寝たいなあ。って、それは反則やわ!

「ぐ...わかった。今日も一緒に寝よう。」

蒼の決心など美少女の本気のおねだりの前では紙ほどの厚さもないぺらっぺらなものだった。

マグカップを二人分洗い終え寝室まで行くと二人は昨日と同じように蒼のベッドで蒼の胸にエインが顔をうずめる形で寝転がった。

それから数分と経たぬうちにエインからはリズムのよい寝息が聞こえてきた。

蒼がおもむろにエインの頬を人差し指でつつくとエインは少しだけ険しい顔をする。

こんな美少女と二人で暮らすのかよ。

「はあ。」

蒼はこれからのことを考えてため息をつく。

「うーん、蒼様ー。」

そのため息に同調するようにエインが寝言を言いだした。

ため息をついた俺を心配してれたのだろうか。

「ふっ、ありがとな。」

蒼は少しだけ笑ってエインの頭を優しくなでる。

「俺も寝よ。」

蒼は静かに目を閉じた。



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