第7話 勘違いの交差点


「え、エイン??これはわかるか??」

「うう...すみません、蒼様。わかりません。」

魁人はお茶を飲むふりをして笑いをこらえている。

ヒナはアイスに夢中でこちらの惨劇に気づいていない。

蒼の目の前に座るエインはいつもと違い私服姿で今にもショートしそうになる頭を抱えている。

蒼はというと数学の超基礎的な問題に悩むエインに軽く絶望していた。

現在蒼たち4人は蒼の家で勉強会を開催している。最初は皆テスト前ということもあって普段以上に集中していたのだが、時間とともに集中力がなくなっていった。

それからはお菓子やアイスなどを食べながらだましだまし勉強していたのだが、集中力がなくなって周りに気が散るようになった蒼はとんでもない事実に気づいてしまったのである。

エインが開始から一問も解けていなかったのだ。いや、この言い方では少し語弊がある。正確には何も書いていなかったのだ。

エインは蒼の視線に気づくと涙目になって蒼に助けを求めた。

そうしていつの間にか形だけの勉強会はエイン救済会へと変貌し、今に至る。

「魁人、ちょっと来い。」

「へーい。」

蒼は一番事情を知っている魁人を廊下へと連れていく。

「エインはなんであそこまで勉強ができないんだ??」

「それはお前、エインが矢守のメイドとしてこれまで生きてきたからだ。四則演算と読み書きは問題なくこなせるがそれ以上のことはメイドには不必要だからな。

なんも教えてないんだよ。」

だから、スーパーの件と言い蜘蛛と言い、一般常識にも疎かったのか。

「それじゃあなんで高校に入れたんだよ。」

「いったろ企業秘密だって。」

魁人が蒼から目線を外す。これは魁人が何か隠しているときの顔だ。

「はあ、まあいいか。それで、どうするよ。」

「んー、知らん。今はお前がエインのご主人様なんだからお前が考えなきゃな?」

魁人はにやにやと下種な笑みを浮かべている。

「まあ、どうせ俺たちはもうそろそろ帰る時間だったしな。面倒ごとは蒼に任せて帰るとしますか。」

魁人は部屋に戻りヒナを呼ぶと二人で帰っていった。

帰るときの魁人の笑顔はぶん殴りたくなるぐらい輝いていた。




蒼は二人を玄関まで送ってからリビングに戻る。

エインがとても気まずそうに縮こまっているのを見て蒼は思わず吹いてしまった。

「な、なんで笑ったんですか!?」

エインが嚙みついてくる。

「ごめんごめん、落ち込んでるエインが可愛くて。」

「っ!」

エインが顔からボンっと湯気を出して顔を茹でだこのように赤くする。

「それに、昨日もいったろ?もっと頼れって。そんな申し訳なさそうにしなくていいんだ。」

蒼はエインの頭を優しくなでた。

「ありがとうございます。ではご夕飯を作ってきますね!」

一瞬にして元気を取り戻したエインは立ち上がり、小走りでキッチンへと向かった。

二人が夕食を済ませたあと、蒼はすぐに風呂も済ませテレビの前のソファにパジャマ姿で寝転がりテレビを見ていた。

テレビには芸人が、黒いスーツにサングラスをかけたいかにもやばそうな人たちに絡まれている映像が面白おかしく映しだされていた。

そんな中エインが風呂を済ませパジャマ姿で浴室から出てきた。

エインは蒼のもとまですたすたと歩いていき、ソファの横まで行くと一度テレビに目線を移してすぐに蒼のもとへと視線を戻す。

「あ、蒼様。今から一緒に勉強会しませんか?」

蒼も寝転がるのをやめソファの上で胡坐をかく。

「ああ、いいよ。」

蒼がそういうとエインは嬉しそうにして二階に自分の教材を取りにいった。

「うし、始めるか。」

「お願いします。」

なぜかエインが昼よりやる気なのはさておき蒼とエインはリビングの机の上に国語の課題を広げると各々問題を解き始めた。

「ふー、なかなかいい話だったな。」

蒼が課題であるロボットと人の恋をテーマにした作品を読み終えるとエインが蒼の肩をちょんちょんとつついてくる。

「すみません、蒼様。すこし意味の分からない単語があって。」

「ん?どれ?」

蒼はエインの人差し指のさすところへと目を向けた。その単語を見た瞬間蒼の脳内で雷が走った。

「ロボットとはなんでしょうか?」

「...え??」

え、今なんて言った?

蒼はエインが言った言葉を頭の中で繰り返す。

ロボットとは何ですか?だって?

「な、なにいってんだよ。エインもロボットだろ??」

「??私の名前はエイン・フォーゼですよ?」

え?とぼけてんの?いや、そうは見えない。

蒼は自身の置かれている状況に困惑していた。

「ろ、ロボットってのわな、機械のことだ。」

とりあえず蒼がエインの質問に答えるとエインはなるほどーと言いながらすぐに問題にとりかかった。

そして順調に文章を読み進めていたエインの手が突然止まる。

「蒼様、先ほど私のことをロボットだとおっしゃいませんでしたか?」

「あ、ああーいった気がしないでもない。」

徐々に状況を理解してきた蒼は気まずそうに彼女に答える。

「そういえば、初めて会った時も私のことをロボットメイドとおっしゃっていましたよね?」

「は、はいそうですね。」

状況を完全に理解した蒼は顔面蒼白になりながらなんとかエインとの会話を続けていた。

蒼が、エインが、たどり着いた真実に二人は異なる感情をあらわにする。

かたや顔面蒼白になって冷や汗をふきだし、かたや頬を限界まで膨らませ涙目になって、それぞれの感情を隠そうともしない。

そんな二人がたどり着いた真実とは

「蒼様、私をロボットだとお思いになっていたんですね!?」

「まっことに申し訳ありませんでしたあ!」

蒼はソファの上で土下座をして必死になってエインに許しを請う。

先ほどテレビに映っていた芸人はドッキリをかけられていたことを知らされ、その場に倒れ伏し悔しがっていた。

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