第6話 最高の朝と最悪のHR


「んー。」

蒼は窓から漏れた光に照らされて目を覚ます。外はいつの間にか明るくなっており時計を見ると5時半を指していた。

どうやら目覚まし時計が鳴る前に起きてしまったらしい。昨日エインと一緒に寝たことで眠りが浅くなってしまったのだろうか。

そんなことを考えていると徐々に頭が覚醒していき、隣にエインがいないことにいまさらながらに気づく。

「なんかめっちゃいい匂いするな。」

エインの不在に気付くのとほぼ同時に、部屋に香ばしい匂いが充満していることにも気づく。

蒼は鼻をすんすんと鳴らしながらベッドから起きてリビングへと向かった。

「おはようございます、蒼様。」

キッチンではエインが目玉焼きを焼いていた。エインは蒼に気づくと一度フライパンから目線を離し蒼に笑顔を見せる。

昨日の一件以来エインの蒼に向ける表情が豊かになった気がするのは多分勘違いなんかではないのだろう。

「おはよう、エイン。朝ごはん作ってくれてありごとな。」

「いえ、そんな。ま、毎日おつくりしますのでわざわざそんなことを言っていただかなくても。」

エインは照れるようにしてフライパンをじっと見つめながらそう言った。

顔が赤くなっていることを隠しきれてないところが可愛いです。はい。

「お、おう。」

まあ、俺もそんなこと言われてめっちゃ照れてるんですけどね。

「もう少しでできますので先に食卓の方に座っていてください。」

「あーい。」

それから朝食を二人で食べてそれぞれ学校の支度をし終え、玄関で靴に履き替える。

「よし、行こうか。」

「はい。」

二人は玄関のドアを開け外に出た。



「おはよーっす、お二人さん。朝から熱いねーー。」

蒼とエインが学校につきクラスまで行くと待ち伏せていたかのように魁人がこちらにやってきた。

「それはどういう意味かね、魁人君。」

「さあねーー。」

魁人が外を見てごまかしてくる。こういうところは財閥の御曹司そのものだ。

「魁人様、おはようございます。」

「おはよう、エイン、昨日は楽しめたかね??」

魁人がエインに標準を定める。エインは魁人の顔も見ずにただ顔を赤らめていた。

「およよ?顔が赤いなー??どうし」

「はーい、席について。ホームルームを始めるよー。」

エインの窮地を助けてくれたのはまたしても先生だった。

あなたは僕たちの救世主ですよ、先生。

「ちぇー。まあいいや、またあとでな。」

魁人は一瞬悔しそうな顔を見せるもすぐにけろっと笑って席に戻った。

面白いものをも見つけたときの魁人はいつもああだから困る。

そんなことを考えていた蒼も、顔がまだ少し赤いままのエインとともに席へと戻っていった。



HRが始まり、先生がいつものように話し始める。

だがいつも通りなのは先生とエインだけのようで生徒たちは男女問わず全員がそわそわしていた。

その理由を蒼は知っていた。なぜならそれは生徒の性であるからだ。何も知らないエインだけが唯一平常心でいる。

そうしてそのときはとつぜんにやってきた。

「えー、今日からテスト週間です。各教科で課題が出されているでしょうからしっかりと勉強するように。」

そう、期末テストである。テストという単語を聞いた瞬間クラスの皆の顔色が一気に悪くなり一同げんなりしていた。

そんなことなどお構いなしに話を終えた先生はすたすたと扉の方へ歩いていき、教室を後にした。

「はああああ。」

先生がいなくなったとたんクラス中から聞こえるため息の連鎖にエインは何が何だかわからず戸惑っていた。

この子いつ見てもかわいいよね。


「蒼ー、今日お前の家で勉強会しようぜ。」

HRが終わると魁人はすぐに蒼の机の前へとやってきた。

「別にいいけど、三人でか?」

「いや、ヒナも呼ぼうぜ。おおーい、ヒナーー。」

「なーーにー?かいとー」

魁人が名前を呼ぶと、少し前にいた女子数人の中から茶色でショートの髪の毛を揺らし、きらきらとした茶色の目でこちらを見ているひとりの少女がこちらまで歩いてくる。

「ヒナ、今日蒼の家で勉強会しね??」

「お、いいねえー。私、立花陽子ちゃんに勉強を教える人は覚悟しておくことだね!」

「自慢げに言うなよ。」

今蒼の目の前で魁人と夫婦漫才をしているのが、ヒナこと立花陽子である。彼女もまた俺と魁人と中学から仲のいい、いわゆる腐れ縁仲間の一人なのだ。

「じゃあ、ちょっと家の片づけしたいから二人とも俺がメールしたら来てくれ。」

「了解ーー。」

「オッケーー。」

二人は能天気な返事をすると自分の席へと戻っていった。

すると、今まで黙っていたエインが後ろからツンツンと俺の背中をつついてくる。

「蒼様、テストって何ですか??」

首をかしげながら純粋な目でこちらをうかがう彼女を少し愛おしく思ってしまったのは俺が機械が好きだからだろうか。

「テストってのはな...」

蒼はエインの机に両肘を置き片手で顎を支え、もう片方の腕を机の上に乗せるような恰好でエインに笑顔を見せた。

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