第2話 ホームステイ
俺、水樹 蒼の日常は平凡極まったものだ。今日も何も変わり映えのないいつもの教室でいつものように授業を受けて、いつものように友達としゃべって、いつものように帰宅するだけ。そう思っていた。
いや、そんなことをいちいち考えていたわけではなく、今日もそんな一日になるであろうことを勝手に、自然に、予想していただけなのだ。
その予想は幾千と繰り返してきた学校生活で培った経験則、いわば予言にも近いといえよう。それなのに、なぜだろう。
なぜ...
「な、なんで、エインさんがここに...?」
なぜ昨日のロボットメイドさんが俺の通う私立群青高校の俺のいる2-Cクラスの俺の机の前に立ち、俺の顔をじっと見つめているのだろう。
「今日からお世話になります、蒼様。」
昨日のような理性的な冷たい銀色の目、だがどこか暖かいその目で俺を見つめる彼女は俺に一礼する。
お世話になります??なにが、どうなっているのだろうか。そんなの俺にもわからない。
こういう時は一度ゼロからことの顛末を振り返る必要がある。ということで、起床から、今に至るまでの流れをざっと確認してみることにしよう。
まず、いつもと同じ6時に起床して、朝食を済ませ、制服に着替えて家を出る、途中で友達と会って、そのまま話しながら歩いているうちに学校に到着。時間があったのでいつも持ち歩いている本を読んで朝のHRが始まるのを待っていたはずだ。
次第に人が集まってきて、そのうち先生もきて朝のHRがいつも通り始まった。その時に突然、先生が転校生が来ただのと言いだした。
クラスがざわめき始めた中、先生の呼びかけとともに扉を開けて黒板の前まで歩いてきた美少女こそ、ロボットメイドことエインさんご本人という訳だ。
エインさんが自己紹介をしていた時大半の男子がその美貌に魂を奪われ彼女の話が彼らの耳を右から左に抜けていく様は笑いを禁じえなかった。
自己紹介が終わり、さあエインさんの席はどうするか。当然男たちは戦争を始めた。クラスが騒がしくなる中エインさんが突如動き始め、クラスの全員がその姿に目を奪われる。だが、そんなこと彼女にとって些末のようなものらしくそれらの視線を全く意に介さず歩を進めていく。
少しの間クラスに静寂のひと時が訪れた。エインさんの足が止まり皆がそのたどり着く場所へと目を向ける。そして、それを見た全員が口を開けぽかんとしていた。
勘の良い人ならお察しであろう。彼女がたどり着いた場所とは...
「今日からお世話になります、蒼様。」
俺なんだよねえええええ!!
いや、わかんないから!どんだけ考えてもわかんないから!なんで彼女がここにいるんだよ!ロボットって学校に通うものだっけ!?
「エインさん、昨日からお前の家でホームステイしてるんだもんな?そーう??」
蒼が頭を抱えていると涙目になった魁人が腹を抱えながら蒼にそう確認を取る形で尋ねてくる。
「いや、わけわから」
「はい、ホームステイです。」
え、エインさん??何をおっしゃっているんですか?や、やめろ、男子たちよ。俺は無実だ。だからそんな殺気を放ってこっちに来るな!
「はいはい、じゃあエインさんは水樹君の後ろの席ね。皆、HRを続けるから早く席に戻りなさい。」
俺の命の危機を救ってくれたのは先生だった。ありがとうございます、先生。皆も渋々自分の席へと戻っていく。
「改めてよろしくお願いします。」
後ろからエインさんが挨拶してきたのでひきつった笑顔を返してから、前を向く。魁人の方を見ると彼は親指を立ててこちらに笑いかけていた。
とりあえずあいつはぶっ飛ばす。
放課後、迫りくる数々の殺し屋(クラスの男子たち)を振り切った蒼はエインと魁人に呼ばれ屋上へと向かっていた。
なぜ、自分をこんな目に合わせた張本人に会いに行くか。それは美少女ロボットに会いに行くため、ではなく。蒼を呼ぶときの魁人の顔がいつになく真剣なものだったので断り切れなかったのだ。
そんなことを考えているといつの間にか屋上についていた。蒼は自分の甘さにため息をつきながらも屋上の扉を開ける。
「お、来たか。ん?なんでため息なんてついてんだ?」
「自分の胸に手を当てて死ぬほど考えろ。」
「そんなおこんなってー、さっきは悪かったと思ってんだからよ。」
魁人はへらへらと笑いながら雀の涙程度の謝意を見せる。
「はあ、んで、悪いと思ってんならなんであんなこと言ったんだよ。どうせそれを言うために俺を呼んだんだろ。」
「それについては私から。」
蒼が頭をポリポリかいて不機嫌をあらわにすると、エインが心なしか慌てながら答えた。
「いんや、俺が言うよ。」
魁人はそんなエインを制止させ、話はじめる。
「エインは今回の研究の実験体に選ばれたんだ。詳しくは社外秘だから言えないけどよ。そんで高校に行かなくちゃいけなくなったわけ。けど、俺んちのメイドだってのを誰かに知られると面倒なんだよ、ほら、俺んち財閥だろ?だから、俺の唯一無二の親友である蒼、お前にこいつの面倒を見てほしいんだ。
学校には外国から来た留学生ってことで通してるからよ、なっ!?頼む!お前ひとり暮らしだろ!?」
確かに俺はアメリカに長期出張中の両親にはついていかず一人で暮らしてるけど...
それにしても、ホームステイ。ロボットはいえこんな美少女メイドと同じ屋根の下で暮らすのか、毎日休まらないな。
「ダメ...でしょうか?」
うわっ!そんな上目遣いは反則だろ!目でっか!なんかキラキラしてるし。こりゃもうだめだ、あきらめよ。
「分かった、いいよ。ホームステイ。」
「ありがとうございます、蒼様。」
蒼に向けた彼女の表情ははたから見ればいつもとさして変わらないものに見えたはずだが蒼には彼女が確かに嬉しそうに、輝いて見えた。
陰に潜んだ悪友の顔など見る余地すらないほどに。
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