勘違いご主人様は今日もロボットメイドのお茶を飲む

坂ノ清

第1話 ロボットメイドとの遭遇

「お前の家でかすぎんだろ。さすが日本が誇る財閥の家って感じだな。」

「んなもんすぐ慣れるわ。ほら、行くぞ。」

俺、水樹 蒼は中学からの親友であり、悪友である矢守 魁人の家に高校2年生になって初めて遊びに来ていた。

俺の黒髪の短髪に少し切れ長の目という地味な見た目とは相反するように魁人の見た目は煌びやかなショートの金髪に冴え冴えとした金目というザ・陽キャイケメンのそれであり、

また俺が一般庶民の代表ともいえる超一般的な家庭の一員であるのに対し、隣であくびをしているこの陽キャイケメンは日本最大の財閥、矢守財閥の御曹司であって...

いけないいけない、目の前のこのどでかい豪邸にあてられてついつい劣等感を爆発させてしまった。おい、あくびで傾いたイヤリングが光に反射してまぶしいわ、ぼけ。

蒼はそんなくだらない思考を絶やすことなく、隣で歩く魁人に置いて行かれないように豪邸の門をくぐった。



「出てくるお菓子の格が違うのだが...。」

「お前はいちいち驚きすぎなんだよ。んで、何するよ?」

蒼たちは魁人の家に入ると手を洗い、魁人に急かされすぐに魁人の部屋へと入った。その際に何人もメイドとすれ違ったのだがその半数ほどが現在矢守が研究開発しているAIロボットの試作機らしい。

自分の家でも研究を行っているとは矢守財閥おそるべし。

魁人は出てくるお菓子一つ一つに驚く蒼を見てあきれ笑いを浮かべながら、ゲームのカセットが山のように積んである箱の中をあさっている。

「あー、そうだ。蒼って、ロボ好きだよな?矢守って今機械系、特にロボット系に力入れてるらしいんだけどよー。なんでももうすぐ最新型のAIロボットが開発されるらしくてさ、俺それの見学に行かなくちゃいけないんだけど、お前も今度一緒に見に行くか?」

「え!?マジ!?いいの!?いくいく!いやー、やっぱ持つべきものは財閥の御曹司の友達だわー。」

「お前の友達の理想バカたけえな。」

そんな軽口を言い合っていると不意に扉をノックする音が聞こえた。

「入っていいぞ。」

魁人が御曹司らしく一言言うと、扉が静かに開かれる。

「失礼いたします、魁人様、蒼様。」

扉が開きそこに立っていたのは、すべての光を反射してきらきらと輝く銀髪の髪を腰まで伸ばし、理性的な冷たい銀色の目でこちらをじっと見つめるメイドさんだった。

「お茶を持ってまいりました。」

「そこに置いておいてくれ。」

彼女はその場で一礼すると持っていたお盆を魁人に指示された机の上に置き、紅茶の入ったティーカップを二つ手に取って机に置く。その姿はとても美しく、どこぞの有名画家の絵画にありそうな

光景だった。

「では、失礼いたします。」

エインはお盆を持ち立ち上がり、こちらに向け再度一礼すると部屋を出ようと扉の方へと歩いていく。

「あ、エイン。トイレに行ってくるから、少しこいつの相手をしていてくれ。」

「かしこまりました。」

魁人は突然今まさに扉を開けようとしたエインを呼び止めそう言い残すと自分はささーっと扉を開けトイレへと向かった。どんだけトイレ行きたかったんだよ。

「初めまして、私、メイドとして魁人様の世話役を務めるエイン・フォーゼと申します。今後とも魁人様をよろしくお願いいたします。」

エインは蒼の方へと体を向け自己紹介をする。

どうやら魁人の命令通り、俺の相手をしてくれるようだ。

「あ、どうも。俺は水樹 蒼って言います。」

それにしても無表情な人だな。ん?まてよ、確か矢守は今ロボット系の仕事に力入れてるんだったよな。実際にここに来てから何人もロボットメイドさんにはあっているし。

てことはもしかして、この人もロボットだったりして。

あ、ははーん。なっるほど、魁人君や。そういうことか。俺がロボ好きと知って、俺とロボットメイドさんを二人にしてあげようとしてくれたのかい??照れ隠しのためのおトイレですかい?

かわゆいやつよのー。じゃあ、ここは魁人様のご好意をありがたく頂戴するとしようか。

「ちょっと、色々観察してもいいですか?」

「はい、どうぞ。」

ロボットと言っても一応女性。本人の許可もとったことだし、いざ観察。

頬をちょっとだけ引っ張ってみる。エインは微動だにしない。銀色の髪を触ってみる。エレンは嫌がらない。手を握ってみる。エレンは手を放そうとはしない。

え?嘘、これでロボットなの??まんま人じゃん。矢守財閥やばすぎだろ、どんな技術を持ってるんだよ。

「俺もこんなかわいいロボットメイドさんほしいな。」

あまりのすごさに思わずそんなことを口走る。一瞬、エインの頬が紅潮して見えたのは多分俺の勘違いなのだろう。

「人のメイドになーにしてんだよー。」

「いてっ」

蒼がエインの手を握りながらエインの目をまじまじと見ているといつの間にかトイレから帰っていた魁人が蒼の頭にチョップしてきた。

「なにすんだよー。」

「それはこっちのセリフだ。人のメイドで欲情すんな。」

「またまたー、魁人さんってばー。わかってますから、俺たちを二人にしようとしてくれたんだろ?そんな照れんなってー。」

「いや、なんのこ」

「あ、やべ!バイト遅刻する!今日はありがとな、見学の約束忘れんなよ!?エインさんもさよなら!じゃあ、お邪魔しましたー。」

魁人は、いつもは見ることができない程の鬼のようなハイテンションで家を去っていく蒼を怪訝そうに見送る。

「な、なんだったんだ。」

蒼が見えなくなるのを確認すると、魁人は額を手で押さえ軽くため息をつく。




その夜、魁人の部屋には魁人といつもは夜には部屋に入ってこないエインの二人がいた。

魁人は椅子に座り、エインはそのそばで立っている。

「エインがこんな時間に部屋に来るなんて珍しいな。それで、何の用だ?」

魁人がエインに尋ねるとエインは軽く深呼吸をしてから話始める。

「今日、蒼様に頬を引っ張られました。髪を撫でられました。手も繋ぎました。目も合わせました。」

「う、うん?」

自分が何を聞かされているのか皆目見当もつかない魁人を置き去りにしてエインは無表情のまま話を続ける。

「そして、私を見てこうおっしゃられました。」

エインは一呼吸置き、頬を少しだけ紅潮させてこういった。

「私のようなロボットメイドが欲しいと。」

「は??」

魁人の脳内でロボットメイドという言葉が反芻する。そして、思考を重ねたうえで一つの答えにたどり着く。

水樹 蒼はエインをロボットだと勘違いしていると。

そして、エイン・フォーゼは水樹 蒼に告白されたと勘違いしていると。

「ぶはっ」

魁人はそれは知った瞬間今日の蒼のすべての言動につじつまが合うことを思い出し、吹き出してしまう。

「ロボットという言葉の意味は知りませんが、あんなにまっすぐに私を求めてくれた方は人生で蒼様だけでした。

 祖父母の時代から矢守には多大な恩があるのは重々承知ですが、私が直接その恩を受けたわけではありません。

 それは蒼様の気持ちに比べれば紙のように薄っぺらいものだと今日知りました。」

「お、おう...それで?」

魁人の良心が着実に削られていることなどつゆ知らず、エインは本題へと移る。

「私は魁人様のおそばにいたいです。この気持ちの正体はわかりませんが、そうしたいということだけはわかるんです。」

いや、それはもう恋だろ。魁人はのどまで出かかった言葉を飲み込む。その理由は...

「分かった。お父様には俺から言っておく。エイン、今から言う言葉は主人としての俺の最後の命令だ。」

その理由は...

「その気持ちに正直に生きろ。」

だって、そっちの方が絶対面白いだろ。魁人は内心にやにやしながら今後のプランを練ることにした。

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