第18話
一つ、上級生は、下級生の手本である
一つ、上級生は、より一層行動に責任を持つこと
その後先生から音沙汰は無く、ただいつもの日常に戻ってしまった。
教室を見渡せば、整った顔、顔、顔。
1年間“美学”を受けるだけでここまで皆綺麗になるのかと、今の美容技術に関心する。
「皆綺麗になったねぇ」
頬杖をつきながらため息が漏れると、それを聞いていた牡丹が私に話しかけた。
「紫苑ちゃんのそばかすは無くなったし、椿ちゃんの矯正も終わった。皆脱毛も終わってお肌もツルツルで、なんだか大人っぽくなったよね」
「そういう牡丹もね」
「矯正やっぱり受けて良かったよ!ほら、笑顔になる時も自信もって笑えるの。あぁ、私も二重にしてもらえばよかったな」
人間は随分と欲が深いようだ。にこにこ笑う彼女を見て乾いた笑いが漏れる。
見た目が整えば鏡を見る回数も増えるのか、みんなして手鏡を持ち歩いては自分の顔を眺めている。
「何も知らないって、幸せだよね」
私は自身の腕を見てため息を付いた。
窓もなく、日光に浴びていないからか肌はだんだんと白くなっていった。
もしかしたら指定された日焼け止めに肌が白くなる成分が入っていたのかもしれない。
(校則で指定されたリップと日焼け止めだけは必ず毎日使用する事、の意味がここにきて発揮されているわけね)
これからの事をみんなに伝えたらどうなるのだろうか。
唯一の味方であろう先生からの指示が何もないため、私は何も行動していないのだが、むしろそのせいで誰かに本当の事を言いたいと欲求すら出てきてしまった。
(いや、行動は慎重にしないと)
それにしても先生からの接触が無さすぎて不安だ。もうあれから3か月以上たってしまっている。
休憩時間に席を立ち、お手洗いへと続く廊下を歩く。
自分のクラスから出て、2年生、1年生のクラスの前を歩きながら横目で覗くと、自分のクラスと同じような光景だった。他の学年もまた17人なのだろうか。
(生徒数が多ければいいというわけではない。でも17人が最低ラインっていう事?)
“卒業生が残した手紙”にも17人クラスと記載があった事を思い出す。
ここ最近から17人にしたわけではなさそうだ。
廊下を歩けば、熱い眼差しが飛んできた。私たちがかつて上級生に送ったものと同じだ。
人形のように美しく見えた先輩たちが、こんな風に作り上げられていたなんて、あの時の私には想像がつかなかっただろう。
「あら、瑞樹さん、ごきげんよう」
「先生…」
廊下の先から真っ赤なリップを付けた先生が私の元へと歩いてきた。
今日もまたタイトなスカートから伸びる足が美しい。
高いピンヒールは先生が歩くたびにコツコツと音を鳴らした。
「生徒をほっとくのってどうなんですか?」
「何のことかしら?」
「この間相談した事です」
「あぁ、それね。ちゃんと考えているわ。心配しないで。あなたは授業に集中しなさい」
むっといた顔に気づいたのか先生が私の肩を撫でる。
「安定した暮らしと、地位、財産、全て手に入れるために、勉学に励みなさい」
どの口が!!!!と言いそうになるのをぐっとこらえる。
先生の後ろの女性の銅像が目に入って、私は深呼吸した後背筋を伸ばした。
「はい、先生」
クスっと笑った先生は私の肩を二回叩いた後そのまま歩いていく。
「あ、そうだ。今度の期末テストの後にノートを集めるのだけれど、瑞樹さん私の所に持ってきてくれるかしら?」
「!」
テストが終わってから、何か教えてくれるという事だろうか。
「お願いね」
そう言い残して先生は行ってしまった。
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