第15話
一つ、卒業テストを行う部屋には入ってはならない
一つ、あなたたちは、この学園の財産である事を忘れてはならない
カーテンの向こうの部屋には沢山のソファとテーブルが並べられていた。
扇形に並べられたソファとテーブル。そして天井にはソファと同じ数だけのモニターが付いていた。
「どうぞ座って」
私は一番中央のソファへと腰掛ける。
モニターは各ソファの頭上にあり、座ると丁度良く見えるようになっている。
テーブルもまた、個数分用意されており、なんだか高級なラウンジにいるような気分にさえさせた。
「あれ…?あっちって…」
私の正面。そこには先ほど見た椅子が等間隔に並べられている部屋がそこにはあった。
(さっき、イスが向いている方向は鏡だったはず…)
「マジックミラー…?」
「そう。この部屋からあっちは見えるようになっているの」
先生が隣に座ってソファが沈む。
「卒業テストは、いわゆるあなたたち生徒のオークション」
なるほど。私は驚くよりも先にため息を漏らした。
「オークション…つまり私たちは必要な教育を受け、見た目を整えられて最後に売り出される品物、という事ですか」
「嫌な言い方だけど、正解ね。身の潔白に煩いのもそのせいよ」
「そして、ここの席で、誰かが私たちに点数をつける」
「点数、というより自分の物にしたい子に金額を付けていくの。そして、一番高額で買い取られる」
「人身売買はいけない事です」
「この学園はそうは思っていない。あなた達への投資は十分行っているし、ビジネスだと思っているかも。卒業生たちの購入された金額であなたたちの今の生活が成り立っているのよ」
「卒業生で儲かった金額で、次を仕入れるってことですか」
「ここに集まる人は、かなりの資産家。そして、まれだけど企業もいる。」
半分正解、と過去に先生が言ったのは“企業”がはいっていなかったからだ。
「私たちは卒業時、自分達にかかった金額を学校から教えてもらうわ。そして、利子こそないもののそれを払うように言われる。個人の資産家に選ばれて卒業後にすぐに結婚した子たちは、その夫の負担になる。企業に選ばれた子は、その企業で働きながら自分で返していく仕組みよ」
「卒業したらすぐに身を隠す人は居ないんですか?」
「無理よ。支払う側も馬鹿じゃないわ。いっぺんに返すことなんかしないし、30年くらいかけて返却が終わり自由になったとしても、もうその生活に慣れてしまって、今更過去の生活レベルまで戻せる子なんてそう居ない。しかも旦那に捨てられれば返却は自分にのしかかる。下手に相手を蔑んだら大変よ。企業も同じ。ただ、企業に選ばれて女優とかになれたらまだ自由はあるかもね」
この場所で、私たちを物のように見ている人物たちがいる事に気持ち悪さと、怒りがこみあげてくる。
「先生みたいな人は…?」
「私みたいに選ばれなかった…卒業テストに合格できない子はそのまま支払いを命じられるだけ。ただし、救済処置がある」
先生は立ち上がって歩き出した。
「この学校のために働く事。それだけ」
「それって…」
「他の先生たちも、皆この学校の生徒だったのよ?」
「え!」
先生の中には50過ぎている人もいる。それでも返却できないのだろうか。
「学校のために働けば利子はゼロ。しかも、別途報酬がもらえる事もある」
「報酬…?」
「入学する時にこの学校の人が来なかった?」
確かに来た。この学校を名乗る人物が。
「いわゆるスカウトね。スカウトして入学させることができれば報酬が別にもらえるわ。そして、担任を持つと、卒業させられた人数に対してまた報酬が入る」
「!!」
私は手紙の内容を思い出した。
『卒業テストを受ける前日、先生が私たちに「必ず、必ず受かってほしい」と言ってきた。』
これは、この事が関係していたんだ。担任の先生からしたら受かれば受かるほど自分の利益になる。何度も卒業すればいい事があるように言うのはこのためだ。
「担任の枠は3つ。ここまでのし上がるのも大変だったわ」
先生はマジックミラーの前に立ち、それを撫でると悲しそうな目であちら側を見た。
「私たちは、何もわからないまま人生を搾取されていたのよ」
そこには年齢よりも幼く見える先生の顔が反射していた。
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