第14話
一つ、停電を伴う検査の日は部屋から出ない事
一つ、許可された部屋以外には生徒は立ち入ってはならない
「行くわよ」
先生と約束した金曜日。
確かに先生は私を迎えに来た。それも真夜中に。
日付けが変わる頃に部屋をノックされて私は眠い目をこすりながら先生の後についていった。
「校則違反ですよね」
「ばれたらね」
先生がこの金曜日を指定した理由は明白だ。
今日が停電検査の日だから。目はすでに暗闇に慣れているが、窓のないこの建物のせいで余計暗く感じる。
先生の小さなライトだけが頼りだ。
「どうしてこの学校が頻繁に停電検査をしているか知ってる?」
「いいえ…なにかあるんですか?」
「莫大な量の電気を使用しているから、検査という事にして節約しているのよ」
「まさか」
そんなおかしな話信用できない。そう思っていると、いつもの校舎へと続く道に出た。
「この銅像の数、おかしいと思わない?」
両脇に並ぶ女性の像を見ながら先生は言った。
「変な趣味だとは思います」
「ふふ、そうね。私も最初思っていたわ。これ、全部監視カメラを隠すためにあるのよ」
「監視カメラ!?」
「銅像の目の中に監視カメラが入っているの。だからこの停電検査の時じゃないと、校舎に忍び込むことなんてできなかったのよ」
以前掃除をしているときにこの銅像の目が私を追いかけてきた気がしたのは間違いではなかったのだと思い出す。
校則の一文にある、『私たちは常に見られている事を忘れてはならない』というのは文字通りの意味だったのだ。
「罰則部屋に行った生徒の管理といい…。生徒を監視しすぎではないですか?」
「香澄さんの事ね。仕方ないわ。余計なことを話されて、同じようにこの学校に疑問を持つ生徒が増える方が面倒なのよ」
「罰則部屋では何があったんですか?」
「お付き合いしていた人と絶縁させられた、という所かしら。両親やお金の事で脅されたのかもしれないわね」
今までの学校の事を考えると納得がいく。
この学校はお金で私たちを脅しているのだ。
「ついたわ。入って」
大きな扉の部屋に私は驚く。
「ここって…卒業テストを受ける所…」
一般生徒が最も近づく事を許されていない部屋、『卒業テストで使用される部屋』は入学当初から何度も行かないように指導されている部屋だ。
それなのに鍵のひとつもかかっていないようで、重たそうな扉を開いて先生は先に中へと入っていった。
「普通の部屋だ…」
緊張して中に入ったはいいが、中はまるでダンススタジオのように大きな鏡があり、イスが等間隔に並んでいるだけだった。
部屋の中は予備灯が付いていて、部屋の中をオレンジ色に染めている。
その部屋の隅には重たそうな赤いカーテンがある。
「卒業テストの内容はね、ここでただ座っているだけよ」
「え?」
「鏡の方を向いて、座って、指示があったら立ち上がって、笑って、それだけ。」
「そんなテスト…何の意味があるんですか…?」
「仕組みは簡単なのよ」
先生は赤いカーテンの方へと行き、それを捲るとまた同じような扉が現われた。
「真実を知る覚悟はあるかしら」
ごくりと唾を飲み込む音だけが私の耳に入る。
世の中には知らない方が良い事も沢山あることはわかっている。
このまま、全てを知らずに卒業を迎えた方が幸せなのではなかろうか。
(ううん、もう遅い)
私は沈み始めた船に乗っているのだ。
「当たり前」
私は一歩を力強く踏み出した。
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