第11話

一つ、罰則部屋で行ったこと、聞いたことは他言無用である。

一つ、二度目の罰則部屋行きはない。


テストが終わりチャイムが鳴る。

皆一様に息を漏らした。

「はぁ、今回のテスト難しかったね」

「紫苑ちゃんできた?」

「半分は自信あるかな」

こちらを振り向いた紫苑ちゃんのそばかすはほとんど無くなっていた。

なんだか昔の彼女が何処かに置いて行かれてしまったようで少し寂しい気がする。

「紫苑ちゃん、肌、綺麗になったね」

「えっ本当!?やっぱり?」

紫苑ちゃんはすぐに鏡を取り出して自分の顔をまじまじと見始めた。

「そばかすが無くなって、私少しだけ自信が付いたんだ」

美学があるこの学校には本当に感謝だよ、なんて笑う彼女は何も知らないのだ。

(あなた、あんまり綺麗になったら結婚させられるよ)

「卒業したら、素敵な男性と恋をするんだぁ」

純粋に夢を語る彼女を見てぐっと唇をかみしめる。

「あ、でも女優になるのも良いね!前の卒業生の動画で女優になった人いたよね!」

そうだ。結婚の事ばかり考えていたが、確かに卒業生の動画で女優をやって俳優と結婚した人がいた。

(卒業先は結婚だけじゃないって事?)

“卒業生”というくらいだ。きっとテストには合格したのだろう。

(…個人だけではなく、企業も関わってる?)

「ちょっと、冗談よ。ちゃんとツッコんでよ」

「ごめん、考え事してた」

女優といえば、確か桔梗ちゃんのお母さんが元女優だと言っていたな。

(あ…)

私がクラスを見渡していると、香澄ちゃんが席を立ったのが見えた。

約1年前に罰則部屋に行った彼女は最初こそ目がうつろだったが、今ではだいぶ昔の彼女に戻ったと思う。

ただ、クラスメイトはあの時の彼女を知っているため、誰もそのことに触れる事はしなかった。

ただ、先生の言いつけを守って、いつも通り生活している。

「私お手洗い行ってくるね」

私も香澄ちゃんの背中を追いかけるようにして教室を後にした。




お手洗いの扉を開くと、香澄ちゃんが手を洗っていた。

「テスト、難しかったね」

「そうだね。でも瑞樹ちゃんは成績優秀だし、解けたんじゃない?」

「全然だよ」

奥の個室を確認する。全ての扉は開いており、誰もいないことを教えてくれた。

「ねぇ。聞きたいことがあるの」

水が流れる音が耳障りだ。

「罰則部屋で何があったのか教えてくれない?」

きゅっ、と蛇口をひねると水は止まり、耳障りな音がやんだ。

「校則違反だよ」

「お願い」

「二度目の罰則部屋行きは無いって、校則にあるの知ってる?」

「この学校はおかしいのっ」

「なにを言ってるのかわからない。こんないい学校に他に何を求めるの?」

「香澄ちゃんっ」

手を拭いた彼女は静かに口元に人差し指を置いた。

目は不安そうに揺れている。

「瑞樹ちゃん、テストがうまく行かなかったからって、学校がおかしいせいにするのは違うと思う」

そして、次に彼女は制服の襟元を捲る

「!?」

そこには、黒い小さな機械が取り付けられていた。

機械自体も小さいが、その黒い本体から赤い光が点滅している。

「次は勉強したら大丈夫だよ。ね?」

私はジェスチャーで会話が聞かれているのか問うと、彼女は一度だけうなずいた。

「…ごめん。どうかしてた。テストがうまく行かなくて、今後が不安になっちゃって…罰則部屋に行けば勉強を一回休めるかなって。そんなはずないのに」

「不安だよね。でも大丈夫。先生の、学校の教えの通りにしていれば、必ず安定した暮らしと、地位、財産、全て手に入るんだから」

そういうと香澄ちゃんは外へと先に出て行ってしまった。

(罰則部屋なんて大きな話題がいままで上がらなかったのは先生が口止めしたからだけじゃない…)

盗聴器まで仕掛けて、その後の様子や周りの発言を把握しようとしているのだ。

(校則の、二度目の罰則部屋行きはない、というのは、もうここには居られないという事なのだろうか)

むしろこの学校から居なくなるにはいいかもしれない。

(いや、この学校がタダで退学にするはずないか)

もうすぐ次の授業が始まる。私は一人、教室に戻った。

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