第8話

一つ、風呂場の利用は22時までとする。

一つ、朝の風呂場は使用できない。


「銅像、多すぎ…」

寮の廊下に等間隔に並ぶ花の銅像。

校舎の女性の像ほどではないがやはり数は多い。

一つ一つ確認したいのはやまやまだが、生憎じろじろ見ていると他の生徒の目もある。その為1日で確認できる銅像の数はたかが知れていた。

もう何日も花の銅像を見ているため、どこまで確認したのかわからなくなっているのも問題だ。

私は部屋に戻り1枚のルーズリーフを見つめる。

そこには忘れないようにとメモした昨日の言葉が書かれていた。


「花束から抜けだした貴女へ。水に入ったアネモネの中に、私の全てを残す」

水に入ったとは何なのだろうか。

銅像は皆花瓶に生けられた花の銅像である。全部水に入っているではないか。

「毎日確認してたら、卒業になっちゃうよ」

時計を見ればもう21時を過ぎるころだ。

急いでお風呂に入らなくてはと、準備をして大浴場へと向かう。

この時間になるとお風呂に入る人も少ないのだろう。私の他に2、3人の人が風呂場にはいたが、私が湯船につかるころには皆先に上がってしまった。

「貸し切りもたまにはいいね」

湯船につかれば中央の花の像から噴水のように流れている水の音だけが響く。

何度見ても豪華なお風呂だ。

(ん…?そういえばあれもアネモネの像か…)

まさか、“水に入った”とは本当の水なのだろうか。

(まさかね)

何か残すとしても、この学校は携帯もパソコンも、もちろんUSBだって持ち込むことができないのだ。ならば、一番考えられるのは紙で残されている可能性。

本当の水のある場所に隠すことはかなりリスクだと思う。

「まさか、ねぇ?」

誰に言うわけでもない。ただ自分が納得したいだけだ。

(一応、一応ね)

ゆっくりとお湯をかき分けて私は中央の噴水へとたどり着く。

お湯は循環しており、ドバドバと音を鳴らしていた。

「特に変わったところはないか…」

ゆっくりと一周するも、特段変わったところはない。

「やっぱり、流石に本当の水の所は無理だよね」

諦めよう、そう思った時だった。

(あれ…なんかあそこだけ水がおかしいな)

少し遠くへ行き全体を見る。

噴水の水は綺麗に放物線を描いて落ちているのに、一部だけ少し歪んでいる。

まるで何か引っかかっているように。

私はすぐにそこに行き目を凝らした。

(…何も見えない)

お湯の流れで何も見えない。

「怖いけど…女は度胸!!」

バッと手をお湯へと突っ込む。お湯の流れが激しくて手が重たいが、何か固いものに当たったのがわかった。

それを掴んで引っ張ると、バリバリッと音とともに私の手には手のひらに収まるくらいのテープでぐるぐる巻きにされた何かが握りしめられていた。

「あ、あった…本当に、水に入ったアネモネの中に…」

私は急いで頭に巻いていたタオルでそれを隠す。

驚きのせいか震える足を動かして、早々にお風呂場を後にした。

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