第7話
一つ、授業終了後は速やかに寮へと戻る事
一つ、授業終了後は校舎に残ることを禁ずる
まずは自分のできることから、なんて思いながら放課後に赴いたのは学校の図書室だ。
建物の端の方にある図書室は少し薄暗く、生徒が立ち入ることは少ない。
なぜなら、調べ物をする授業などほとんどないのだ。
ただそこにあるだけの図書室に私も初めて入る。
(誰もいませんように)
白く重たい扉を開ければ紙とインクのにおいが部屋に充満していた。
電気をつけると少しの埃が目の前をチカチカとさせる。
(この学校の歴史が載っている本はないかしら…)
ゆっくりと歩きながら左右の本の背表紙を一つずつ確認していく
一般常識について、マナーについて、女性の仕草について、など今まで習った内容に準じるものがほとんどのようだ。
部屋はそれほど大きくないが、本は大量にある。
一周確認したが、やはり学校に関する本などあるはずはなかった。
(自分の学校の歴史の本なんてあったとしても図書室に置くことはないか)
とりあえずせっかくここにいるのだからと、目についた本を1つ取ってパラパラとめくってみる。
何の変哲もないマナーの本は、1年生の時に習ったものばかりだった。
すぐに飽きて本棚に戻すと、ある本に目がとまる。
「花言葉」
そう書かれた本。
なんでこんなものがあるのだろうか。授業では習っていない。
なんだか一つだけ異様に見えて私はその本をまじまじと見た。
(あれ、なんか挟まってる…!)
本の間に何かが挟まっているのが見える。紙きれのようだ。
私は急いでその本を手に取って開いた。
「これって…」
本より少し小さい大きさのルーズリーフ。
静かな部屋に、ごくりと自分の喉が鳴るのが聞こえた。
そのルーズリーフに書かれた文字を読む。
「花束から抜けだした貴女へ。水に入ったアネモネの中に、私の全てを残す…」
これは何だろう。
いたずらだろうか。ただのポエムかもしれない。
「違う」
ルーズリーフに書かれた文字は乱雑だ。とても急いで書いたかのような。
それにただのいたずらならば、もっとわかりやすい所にするべきだ。
ここにはこの学校の生徒が手にしそうな本が他にもあるし、わざわざこの『花言葉』の本を選んだという事は、簡単には見つかってほしくないという心境が隠されている気もした。
「アネモネ…」
本を開いてアネモネを調べると、そのページには花の写真と花言葉が載っている。
(アネモネの花言葉は———‐)
「何をしているのですか??」
私はとっさに本を閉じる。声のした方向を振り返るとあの子が立っていた。
「
「牡丹ちゃんが探していましたよ?」
「牡丹が?」
「一緒に寮まで帰ろうと思っていたみたいです。でも先に帰ってもらいました」
淡々と話す彼女は、鬼灯さん。クラスメイトだ。
入り口に立っていた彼女はゆっくりと私の方へと歩いてきた。
高い位置で結ばれたポニーテールは彼女が歩くたびに左右に揺れる。
(なんで鬼灯さんがここに…)
彼女との接点はほとんどない。クラスでも常に一人で、休み時間でも一人で本を読んでいるのだ。
誰に対しても敬語で話すのも、皆が話しかけにくい理由の一つかもしれない。
「ここで何をしていたんですか?」
「別に。調べもの」
私は彼女が近づいてくる前に急いで本を棚に戻した。
「ここには1年生で習ったマナーの本も沢山あるから復習してたの」
「そうですか。ただ、放課後はすぐに寮へと戻るよう校則にもあるはずです。これからは気を付けてください」
「そうだね、もう帰るから」
私は急いで鬼灯さんの居る方へと向かう。
「瑞樹さん」
彼女の横を通り過ぎようとしたときに腕を掴まれた。私は足を止めて鬼灯さんと向き合う。
「なに…?」
「あまり、目立つことは控えた方がよろしいかと」
視線を逸らしてそういう彼女。
おかしい。彼女は愛嬌はないもののきちんと目を見て話す子だったはずだ。
なぜ今は視線を逸らすのだろうか。
「忠告ありがとう」
「大事なクラスメイトですから」
「友達でしょ?」
「…クラスメイトです。最後残っている人が居ないか確認してから帰りますので、瑞樹さんは先に帰って下さい」
そっけないなと思いつつも彼女らしいか、とあまり気に留めず私は先に部屋を後にした。
(それよりも、あの言葉だ。)
(アネモネの中に、私の全てを残す…)
(アネモネの写真を見て思い出した。寮にある白い花の銅像…アネモネの形と同じ…!!)
(もしあの言葉が、白い花の銅像…白いアネモネの像を指すとしたら——-)
白いアネモネの花言葉は「真実」「期待」「希望」
(何かあるのかもしれない)
私は高鳴る鼓動をお落ち着かせながら寮へと急いで戻った。
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