第6話
一つ、学校を卒業すれば安定した暮らしと、地位、財産、全て手に入る
一つ、そのことを疑ってはいけない
この学園にきて2度目の夏が来た。
半袖になった制服以外は去年と変わらず、季節感はあまり感じられない。
前に出される映像を見ながら、早く外に出たいと思いをはせた。
「この女優もこの学園の出身です」
先生が映像を見ながら解説していく
「5年前の卒業生で、3年間女優として働いたのち、皆さんもご存じの俳優さんと結婚なさって今は幸せに暮らしています」
先生がパソコンを操作して、綺麗な女性の映像が流れる。
『在校生の皆さんこんにちは、私はこの学校で学んだこと、手に入れたもので女優という職業に就きました。今は、素敵な旦那さんと暮らして幸せです。皆さんも、この学校を卒業すれば、安定した暮らしと、地位、財産、全て手に入りますよ』
映像が止まり、画面が切り替わる
「今度はこの卒業生です。卒業後すぐに起業家と結婚しました」
卒業後にすぐに結婚?そんなことあるのだろうか。不思議に思い映像を見る
『在校生の皆さんこんにちは。私は卒業後すぐに主人と結婚しました。歳の差婚ではありますが、大人の彼に素晴らしい生活を提供してもらっています。見てください』
彼女は部屋を案内し始めた。それに伴いカメラも彼女を追っていく。
『ここが私専用のクローゼットです』
人が住めるほどの大きさのクローゼットには沢山のブランド品が並んでいた。
『すべて主人がプレゼントしてくれたんです。欲しいものは全て買ってくれます』
歩き続ける彼女。
『あ、私がカメラをまわしてもよろしいですか?』
カタカタと少し画像が揺れる。
『私のお気に入りのアクセサリーを紹介しますね』
綺麗に並べられた宝石たちを一つ一つ紹介していく彼女。
クラスからは、羨ましそうな声が漏れた。
(ん…?)
カメラが少し宝石から離れて周りが映し出されると近くに写真たてがあるのが見えた。
『皆さん、私は卒業後に結婚したんです、すぐに』
(あれは…旦那さん?)
小さくて画像が不鮮明で旦那さんかどうかはわからない。
でも写真には二人の男女が並んでいるのが見える。腕を組んでいるようで、ぴったりと体を寄せているのでかなり親しい関係なのだろう。
女性の方は不鮮明でもはっきりとわかる真っ赤なタイトなドレス。
一方、男性の方は
(あれって、杖…?)
茶色いスーツのようなものに、手には杖のようなものが見える。
そして、身長も女性より頭一つ分ほど小さい。
『私は結婚して、安定した暮らしと、地位、財産、全て手に入りました』
それでは皆さんも、気を付けて。そう最後に言った後、彼女の全体の姿がまた映し出される。
真っ赤なドレスだ。タイトな。
(やっぱり写真のあの女性はこの人だ)
ではその隣の男性は誰?画像の粗さで顔まではわからなかった。
「彼女は卒業後にすぐ結婚したおかげでこのような生活を送っているのです。ただし、そこに選ばれるのには大変な苦労もあったのですよ」
そう先生が言い残すと、丁度終了を告げるチャイムが鳴り響く。
挨拶が終わり、いつもの休み時間が訪れる。
(歳の差婚…)
歳の差がいくつあるかは動画の中では説明されていない。
この学校は異性との交流は禁止されているし、出会いなんてすぐに見つかるとも思えない。そんな彼女が卒業後すぐに結婚なんて可能なのだろうか?
(もしもあの写真に写った人が旦那さんなら…歳の差は20、30どころじゃない)
祖父の可能性はある。だが動画内で写真がうつったのはあの1枚だけ。
夫婦の写真を飾るのではなく、わざわざ祖父との写真を飾るだろうか。
しかも写真と同じ格好で動画を撮影している。クローゼットには沢山の洋服があるにもかかわらずだ。
(皆さんも気を付けて、という最後の挨拶も気になる)
罰則部屋に、窓のない銅像だらけの建物、そして他の学校には絶対ない美学という教科。
そして、耳にタコができるくらい聞かされる、学校を卒業すれば安定した暮らしと、地位、財産、全て手に入るという言葉の意味。
(もう我慢できない。調べよう)
幸いもう校舎にも詳しくなったし、先生や皆の行動もある程度わかるようになってきた。
私は、この違和感が何なのか見てみぬふりはできない。
(このおかしな学校が何なのか)
必ず突き止めて見せる。
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