創作考〜着想1

 池波正太郎は、鬼平犯科帳おにへいはんかちょうを、何となく書き始めて完成させた経験を告白していた。

 漫画家の永井豪は、「デビルマン」においては、おそらく、状態だったのではないかと、私は推察している。

 一般に、「降りてくる」と言われる状態、いわゆる「天の啓示けいじ」「天啓てんけい」である。

 しかし、創作における最大の問題は、着想である。アイデアが浮かばない。ネタが見つからない。こうした問題を、いつ訪れるかわからない天啓に頼っていては、長く書き続けることはできない。

 創作の着想には、まず何が必要か?

 古くから言われるように、小説の主眼が人間を描くことにあるなら、人間を知らなければならない。純文学はもちろんのこと、時代小説でもファンタジーでもサスペンスであったとしても、薄っぺらな人間像では読者にそっぽを向かれるだろう。

 ヒットする漫画は、魅力あるキャラクターを作るところから始まる。

 作家、松岡圭介は、その著書「小説家になって億を稼ごう」(新潮社)で、顔写真入りの登場人物の創造を記している。

 作者の考えるストーリーに合わせて人物を動かすのではなく、勝手に人物が動き出すようになると小悦は面白くなる、という教えは、現代でも通用するだろう。

 だとしたら、「人間を知る」ことこそが、着想の第一歩だと言える。

 どんな人間を産み出せるか、そこにまた、作家としての醍醐味、創作の妙味もあるのではないだろうか。

 もちろん、人でなしのキャラクターもあってしかるべきだが、いずれにしろ、作者自身が惚れ込んでいるキャラクターであるべきで、そうでなければ、読者が感情移入することはできないだろう。

 池波正太郎が天啓を授かるのも、鬼平という確固たる主人公が存在しているからである。

 

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