才能論〜具体的に必要な才能は何か?(その二)

 古典を題材に新境地を開いた芥川龍之介は、その代表作「羅生門」において、死人から髪を抜く老婆の話と蛇を白魚と偽って売っっていた女の、二つの説話を組み合わせている。

 落語の「鰍沢」は、観客から募った三つのお題を組み合わせて創作する三題噺から生まれた噺である。

 俳句にも、一見関係のない二つを一句に読み込む、二物衝突という手法がある。例として、松尾芭蕉の「花の雲鐘は上野か浅草か」が挙げられる。

 新商品の開発を手がける現場でも、異なるモノを組み合わせる手法は実践されている。パンの中にカレーを入れる。にぎり寿司にハンバーグを乗せる。携帯電話に撮影機能を取り付ける。

 何かを目にして、あるいは耳にして、匂いを嗅ぎ取って、まったく関係ないと思われる組み合わせが閃く。理屈は関係ない。そこにあるとしたら、「面白いかもしれない」という感覚である。

 もし、自分にその組み合わせる才能があるか否かを確かめようとするなら、たとえば、二物衝突を意識した句作を試みることは、有効かもしれない。そこに、面白さを感じることができれば、さらに、それを見た誰かも面白がれば、それは才能の一つをあかしてくれている、と考えることができるかもしれない。

 ただし、できなかったからと言って小説が書けないということはないし、できるからと言ってすばらしい小説が必ずしも書けるとは限らない。

 たとえば、この「カクヨム」に連載中の拙著「果心」の主人公は、戦国時代に名の残る幻術師だが、その血筋を、奈良時代の鑑真和上渡日のエピソードと組み合わせて描いた。しかし、私が才能あふれる書き手であるとは言えないという事実は、読者数を見れば明らかである。

 小説を書くために具体的に必要な才能の一つは、異なる二つを組み合わせることに面白さを感じる、という感覚である。

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