第12話 総務・副総務会
入学する前、3月23日に、高校に来るようにと郵便で連絡があった。新1年生の各クラスの総務と副総務が集まる会合だと書いてある。小学校や中学校で級長・副級長と呼んでいたのを格付けした表現だろうかと津田は推測した。
グランドの南にある大きな校舎の1階の廊下を歩いていくと、東の端、廊下の突き当りに会議室があった。ドアが開いている。中を覗いた。部屋の真ん中にストーブがある。この日は寒かった。ストーブのそばに一人の男性がいる。ストーブの調整をしているようだ。
彼は、津田の方を向いて「君の名前は」と聞いた。「津田です」と返事をしたら、「そうか、津田か。ぼくは担任の市名だ」と言って、津田の座席を示した。津田は8組だ。市名先生は社会科の「政治経済」の担当であることが後で分かった。
坐って机の上を見ると、全10クラスの総務・副総務の名前と出身中学校名を書いた紙が置かれている。
次々と生徒、先生、事務員が入って来て着席した。津田の隣に8組の副総務が着席した。相対的美人である。紙を見ると、彼女の名前は浅井奈津子でY中学出身である。ラインオーバーだろうと推測した。
絶対的美人の女性が入って来た。4組に着席した。紙を見ると、山田美奈子さんで、三国中学校出身である。ラインオーバーでない。三国の名を見て、津田は、三国の町が非常に懐かしかった。雀荘は、今もやっているだろうか。山田さんは、あの町に住んでいるんだ。
津田が住んでいる長屋の東側の4軒目に根本という家がある。そこの娘の瑠美子がY高校の1年上である。相対的美人で、自信を持った会話をする。
総務・副総務会があった数日後、道で出会ったら、津田に話しかけてきた。
「あんた、入学試験で8番やったと思てるやろ。違うねんで。12番やねんで」と言った。
「私は、先生に頼まれて新入生のクラス割りの表を作る作業をしたんや。それで知ってるんや。8番の子は、東京の中学の出身やから大阪に馴染みがないやろうという理由で、あんたが8組の総務になったんや。入試の点数は12番なんや。勘違いしたらあかんから、教えといたるわ」と理由づけをした。
根本瑠美子の父親は、長屋の家で提灯を作るのを仕事にしている。母親も仕事を手伝っているようで、ときどき荷物を担いでどこかに持っていくのを見る。派手な着物を着た女性がときどきやってくる。目立っている。母親の妹で、天下茶屋に住んでいると近所の人たちが行っている。津田は、天下茶屋の話を京治に聞いたことがある。だけど、行ったことはない。
津田は、小学校1年生のとき、お習字の競書大会に出場した。会場の曾根崎小学校で「はつひ」と書いた。これが1等賞の大阪市長賞を受賞した。根本瑠美子も出場していて、金賞だった。
あるとき、津田が根本の母親に「天下茶屋てどんなとこですか」と聞いた。
彼女は、「市長賞やからいうて、えらそうにしなや。子供の字が上手いわけないやろ」と返事して、「あんた、ほんまにドブメンのメンガチャガチャやな」と言った。
根本の父親が瑠美子が3年生のときに、天王寺の大きな病院で死んだ。膵臓がんだったそうである。
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