第8話 海老江
津田が住んでいる花川南之町の淀川の対岸の町は海老江である。堤防の上から海老江が見える。
京治ときみと久子と満寿男は、以前、海老江に住んでいた。京治は、野田阪神の近くの大開町で、木箱製作会社を経営していたのである。けれども、会社が倒産した。ダンボール箱が木箱をつぶしたんや、と京治が言っている。
それでお金がなくなったので、花川南之町の長屋に同居しているのである。京治と満寿男は、尼崎の木箱会社の工員として働きに行っている。少ない給料だ。
津田は、京治から海老江の話を何回か聞いたことがある。海老江が気に入っていたのかもしれない。
海老江には間重富の住んでいた家があるという。間重富は、もっと南の西区の長堀に住んでいて、晩年、海老江に引っ越したのだ。その場所に子孫が住んでいて、立派な家があると京治は言う。津田は、ケプラーの法則を中学生の理科の時間に聞いたとき、京治の話を思い出した。
それから、海老江に大きな印刷会社があるという話も聞いた。有名な印刷会社だそうである。
海老江には市電が走っていて、久子はそれに乗って、途中で乗り換えるが、平野流町の師範学校に通っていたらしい。
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