第5話 ドブメン

 長屋の津田の家の西隣は佐藤である。夫婦と夫の母親の敬子と津田より二歳年下の息子の四人家族である。敬子は、島根県の出身らしい。長屋にすんでる人らと話し方が違う。亭主は、北新地の散髪屋で働いていたと言っているが、今は、体調が悪くなって仕事をしていないらしい。それで、女房の光子が働いている。歌島のほうにあるガラス工場で工員の作業をしているらしい。歌島には、いろんな工場があると聞いている。

 光子は、小学生の津田に、「あんた、ほんま、おもろい顔やな。ほんまもんのドブメンやな」と言う。

 「私が働いてる会社の工場長さんが、ごっついイケメンやねん。その息子さんもイケメンやねん。あんたと同じ学年らしいわ。勉強もすごいようできるらしいわ。あんたでは、勝負にならへんわな」と言う。

 工場長は、鼻川神社のそばの国道を西に超えたあたりに住んでいるらしいから、息子は津田らとは違う小学校に行っている。津田は工場長にもイケメン息子にも出会っていない。

 光子の息子は佐藤和夫である。光子は、自分の息子のことは、どう思っているんだろうか。息子はイケメンでない。


 光子は、53歳のとき、中津の大きな病院で、大腸ガンで死んだと伝え聞いた。Y高校は、以前は、この病院の場所にあったそうである。

 

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