第4話 花川公園
津田の家の近くに花川公園がある。家から東に歩いて数分で到着する。
最初に行ったのは、ケン兄ちゃんが誘ってくれたときである。ケン兄ちゃんは、幼稚園の頃から津田を大事にしてくれる。ケン兄ちゃんは、津田が住んでいる長屋と同じ列にある別の長屋に住んでいて、工業高校に通っているらしい。
津田が小学校五年生のとき、ケン兄ちゃんが、野球グループに入らないかと津田を誘った。津田は、すごく嬉しかった。
花川公園で野球をしているグループがあることは、津田は以前から知っているし、実際に見たこともある。ただ、野球をしているのは、中学生以上で、小学生はいなかったと思うので、自分がグループに入ってもいいんだろうかと思った。ケン兄ちゃんは、いいんだよと言ってくれた。
小学校の正門前の通りの商店街に、甲子園で優勝投手を目指している人が住んでいる。四方さんだ。津田は、四方さんを商店街で見て知っている。野球部が忙しいけど、ときどき来てくれるらしい。
津田は、最初は控えで見ていたが、五回の裏になったとき、ケン兄ちゃんが、「ライトの守備や」と言った。
いきなりボールが飛んできた。津田は夢中で走って行ってグローブを向けた。ボールが入った。津田は、手元でグローブを見た。ボールがある。
「よっしゃ!」とケン兄ちゃんが大きい声で言った。
津田芳雄の父親の悟郎は、津田を「グズヨシ」と呼ぶ。運動神経が鈍いと言っているのである。悟郎は、自分が運動神経が非常にいいと思っている。悟郎は、岡山県英田郡美作町巨勢の出身で、農林学校を卒業している。農林学校で、走るのが二番目に速かったと何回も言う。
悟郎の父親の謙介は、蚕糸学校を卒業して岡山県庁の役人になった。蚕糸学校のとき、グンゼを創立することになるツルキチドンと親しかったらしい。
悟郎は、岡山を出た。美作の家に住むのが嫌だったのではないだろうか。姉が東上町で金物屋をやっている山下良蔵と結婚しているのを頼って、山下金物店で雇ってもらった。働きながら、警察官になる試験を受ける準備をし、合格するに至ったらしい。現在は、巡査なのである。
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