僕たちの曲作り――1

「いまごろなに言うてんねん、啄詩。アカンよ、そんなん」

「え? けど――」

「もう、『コード進行』もベースラインもイントロも間奏もアウトロも――なんもかもほとんど仕上がってんねんよ? アクセントの音色に関しても、あとちょっとってとこまで来とるんや」


 音子の口調は固いものだった。


「歌詞の内容を変えるっちゅうことは、曲全体の雰囲気も変わるっちゅうことや。そうなると、伴奏も考え直さんとアカン」


 いつものくだけたような気さくさは、微塵も含まれていない。


 ひたすら真剣で、どこか切実そうにも感じる声色だ。


『楽しもう』――そんな気持ち、どこにもない。


「で、でも……っ」

「でももなにもあらへん。ここまで来て振り出しに戻ろうっちゅうんか?」

「たしかにそうだけど――」

「いままでのウチと音子の苦労、なんなん?」

「――――っ!!」


 それは僕の胸に突き刺さるような、叩き付けられたような一言だった。


「音子ちゃんっ!?」


 乙姫が、音子の音子らしくない発言に絶句する。


 そうだよね……いまさら、僕に主張する権利なんて、ないよね。


「ごめん。音子、乙姫……僕が不甲斐ふがいないから、こんなことになったんだよね?」

「啄詩くん……」


 でも、僕は……


「だけど、もう少し、考えてみてくれないかな? 僕、どうしても乙姫の夢を叶えたいんだ――その、勝手すぎる、けど……」


 僕は顔を伏せながら言葉を絞り出す。


 僕のせいで音子と乙姫は振り回されているんだ。どうしようもないよ、僕は。本当に。


 事実、僕は迷惑ばかりかけているんだからさ。


 軽蔑けいべつされたって罵倒ばとうされたって、仕方のないことだ。


 けれど、わずかでも乙姫の力になれるのなら。より、聴いてくれた人に受けいれてもらえるなら。そんな曲が作れるなら――


「――――キミは…………」

「え?」


 音子がなにかを口にした。


 ボソリとしていて聞き取りにくい声だ。


 音子は、小さく息を吐き、


「――――今日は解散にしよか?」

「音子ちゃん……」

「姫にも、考える時間、いるやろ?」


 平淡な声で、乙姫にそう言った。


 感情を殺したような、わざと冷たくしているような声だった。


 それで僕は確信したんだ。


 とても聞き取りにくくて、僕が捉えたのと合っているのかどうなのか、わからなかったさっきの一言。


 音子が呟いた言葉は――




 ――――キミは……それで、いいん?




「啄詩も――ちゃんと考えぇよ?」


 僕は思った。


 音子は、やさしい子なんだね。

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