青い海と恋の歌――5
「えっと……一応、これだけ作ってきたんだけど……」
「うわぁ……」
「おー。啄詩、ホンマにはじめてなん?」
三日後。僕がお邪魔したのは音子の家だった。
音子のお宅――上野家は、住善神社から徒歩三分だけ坂を上った位置にある、二階建ての一軒家だ。
人生で二度目。二人目となる、女の子の部屋。
音子は特別、気になる女の子ってわけじゃないけれど、やっぱり緊張する。
乙姫と違うシトラス系の香りとか、やっぱり漂っている甘ーい匂いとか、ホント、そわそわする。
僕、女の子の部屋に慣れられそうにないよ。
聞くところによると、音子のお父さんは音楽プロデューサをしているらしい。
音子自身が作曲家を目指しているというだけあって、音子の部屋はかなり『それ』っぽい雰囲気だ。
勉強用のデスクとは別に、デスクトップ型パソコンとブックシェルフ型スピーカーが置かれたデスクがある。
音子
パソコンの両サイドにあるスピーカーも高性能で、高音域から低音域までクリアな音を届けてくれるそうだ。
『2ウェイ』がどうのこうのって説明してくれたし、音子は音響性能にこだわりを持っているようだね。
パソコンの手前には、ピアノみたいに白と黒の鍵盤が並んだキーボードが備え付けられている。音楽制作・編集ソフトもインストールしているそうだ。
四角い折りたたみ式のテーブル。その手前でカーペットに座る僕の背後には、CDラックが置かれていた。
そこには、邦楽・洋楽・クラシック・ジャズなど、ジャンルを問わず多くのCDが並んでいる。
CDラックの上にはブルートゥース・スピーカーも置かれていた。
パソコンの両脇にあるスピーカーとは用途が違うのかな? 普段、音楽を聴くときはこっちとか。
そして僕の正面――乙姫の後ろにある本棚には、専門書と音楽雑誌がたくさん収められている。
多分、いつも音子は、音楽に関する最新情報を仕入れたり、基礎から応用まで様々な技術を学んだりしているんだろうね。
本当に筋金入りだ。尊敬を禁じ得ないよ。
そんな部屋にお邪魔した僕は、レザーのショルダーバッグからクリアファイルを取りだし、A4サイズのコピー用紙を五枚、テーブルの上に広げていた。
僕が考えた歌詞、五曲分。それらをプリントアウトしたものだ。
「『糸でんわ』――おお、青春やなぁ……これ、両想いってことやろ?」
「う、うん」
オレンジのタンクトップに緑のショートカーゴパンツっていう、やっぱりボーイッシュスタイルな音子が、プリントを手に、感心したような声で僕に尋ねてくる。
「『スケッチブックに何度でも』……これ、とってもステキだね! ――『何度も 何度も ページをめくれば』……」
「で、できれば音読しないでっ」
白いブラウスに青のロングスカート。上品な格好をした乙姫に歌詞を読み上げられて、僕は顔を赤くしてあわあわとした。
嬉しいものだなあ。
音子と乙姫の目から見たら、僕の作った歌詞なんかお粗末なんじゃないかな?
失笑されてしまったり、ボツられてしまったりするんじゃないかな?
そうビクビクしていたけれど、割と好評っぽい。
音子は目を丸くしているし、乙姫は口元を笑みのかたちにしている。
けど恥ずかしい! これ、超恥ずかしいよ!
ラノベでもそうだけど、自分の作品を見てもらうのって、特有のくすぐったさがあるんだよね。
いや、これから世界に向けて発信されるわけなんだから、こんなところで恥ずかしがっていちゃダメなんだろうけどさ。
「いやいや。ホンマ、はじめてとは思えへんで? よう練り込まれとるわ」
「あ、ありがとう」
「で、これは……『
「そっ、それは――」
マリンブルーのトンネルで キミの隣を歩いてる
星空みたいな銀色の群れ 二人の周りを駆けていく
マリンブルーに包まれて 「キレイだね?」ってキミが言う
星屑散らしたキミの瞳 あたしの心が高鳴った
キラキラ輝くキミの瞳
あたしのことを 見つめてて
胸の奥に隠していたのに
あたしの想いに 気付かれちゃうかな?
わかったよ?
やっと 気付いたんだね?
あたしのキミへの想いに
キミの目 キミの声 キミの隣に 胸がトキメクよ
わかったよ?
あたしも気付いたよ?
あたし キミの気持ち 受け止めるよ
やっと キミに伝えられるんだね
ありがとう
待っててくれて
わかったよ?
キミも気付いたんだね?
あたしのキミへの想いに
キミの手 キミの目 あたしの顔 キュッと包んでる
わかったよ?
あたしも気付いたよ?
キミの手 ドキドキしているね
あたしの想い 届いたんだね?
ありがとう ありがとう
待っててくれていて
「……これって、両想いやった男の子と女の子が、告白をきっかけにして、お互いの想いに気付くっちゅうこと?」
「う、うん」
「『マリンブルーのトンネル』っちゅうことは――」
「えっと……水族館デートをイメージして……」
「ふーん……ちゅうことは『初デート』か? で、『両想い』、『告白』するラブソング。ほんで、『水族館』ねえ……」
僕の全身から、ぶわっと汗が噴き出した。
なんでコレ書いた!? 僕っ!!
この『Blue Blue Wish』。もしかしなくても、モチーフにしているのは僕と乙姫のデートだ。
あの公園で溢れ出した僕の想い。
海辺の公園を水族館に見立てて、僕の願望を歌詞としてしたためたわけだけど……
恋しているときのテンションって怖いっ!! こんな正直に書き連ねちゃうんだもんね! 僕が乙姫と付き合いたいっていう願望をさ!
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