因果を含めて……

 仏教から出た「因果いんが」には、

前世ぜんせい悪行あくぎょうから、必然的な結果として現在の不幸がある」

 という意味があります。

金貸かねかしなんて因果の稼業かぎょうでございますよ」

 などと己が携わっている仕事に対して自嘲じちょう的に使うのは、だいたい善人か、そうでなくても、日々、善悪の狭間はざま葛藤かっとうしている人で、誰かのうらみを買うような悪事を働く奴らが、時代劇でこれを使うことはありません。

 しかし、「因果を含める」となりますと、使い手が入れ替わってしまいます。


「因果を含める」

 本来は、

「どうしてもそうなるよりしかたないのだと説明してあきらめささせる」

 という意味で、たとえば、大店おおだな若旦那わかだんなが夢中になっている女に手切てぎれきんを渡して、

「女には因果を含めて別れさせましたので、もう御心配には及びません」

 などと大旦那おおだんなに報告する番頭ばんとうが口にする台詞として使われます。番頭は、ちょっとした憎まれ役を引き受けているようなわけですが、と言って、この番頭が善人であることはまずありません。

 さらに、これが悪事の実行犯の対処報告となりますと、

御懸念ごけねんにはおよびませぬ。きゃつには、因果を含めて金を渡しております。昨夜ゆうべのうちに、草鞋わらじかせております」

「そうか、しかし、いっそ消えてくれれば、後腐あとくされがないぞ」

 善良な人をだまして、あるいは手下に使っている小悪党こあくとうに向かって、

「因果を含めて〜させる」

 と、使役の形で使った、命まで奪おうといたします。

 さすがに現代ではそんな危ない話にはなりませんが、それでも、

「会社(組織)のためだ。彼には因果を含めて辞めてもらおう」

 と、密談みつだんの際に使われているかもしれません……

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