4日目




 翌朝になり事件は大きく動いた。あの人の無実が証明され解放されたのだ。


 現場に残されていた車の車内から複数人の毛髪や飲みかけのペットボトルがあり、事件当時も団体で行動していた可能性があったとして特定を急いでいた。


 そして町内のコンビニの防犯カメラに、買い物をしていた学生と一緒に写る男女三人がいた。


 警察の取り調べによると。匿名の情報は彼らによるもので、未成年でありながらの飲酒喫煙や立ち入り禁止の場所への侵入で大学を退学処分させられてしまう。


 と自己中心的な考えから、あの人に罪を被せようと画策していた。


 彼らの中では人命は学歴よりも軽いらしい。


 そして、あの人の無実を決定付けた証言が、思いもよらない人達から寄せられていた。




「去年、私はあの海で溺れているのを助けられました。当時、夜遅くまでお酒を呑み、海で泳いでいた時、離岸流にハマってしまい一気に沖まで流されました。一緒にいた仲間達もどうすることも出来ず呆然としていた中で、私のもとに泳いでくる彼がいました。パニックを起こしていた私に『安心しろ、落ち着いていれば助かる』と声を掛けて下さり、浜辺まで送り届けてくださいました。彼は私の命の恩人です。殺人をするなど絶対にありません」


 そう証言したのは30代の男性だった。


 他にも同じような内容で幾つもの証言が警察に届けられていた。


 証言者たちはSNSを見て彼だと確信し警察に名乗り出たのだ。何故それまで彼らは口をつむんでいたのか?


 それはあの人が口止めをしていたからに他ならない。


 美しい海を静かに見守りたかっただけだから。


 今回の事故の犠牲者である学生は既に手遅れだったらしい。そんな学生を、せめて親もとへ帰してあげたいと必死で浜まで引っ張って泳いだらしい。


 学生の腕に付いた痣はその時によるものだった。


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