花束 おまけ 3
咲良ちゃんが開いた扉の向こうには、綺麗に整理されたリビングがあった。暖かい季節になるけれど、白いカーペットの上にはこたつが置かれていて、向かい合うように座椅子が置かれていた。リビングを見渡せるようなアイランドキッチンが部屋の片方にはあって、調理場が広くて、綺麗で羨ましかった。
「こたつ仕舞わないの」
「一緒に住んでる人が寒がりなの」
「あ、そっか……」
「比奈、そこ座って」
咲良ちゃんが座椅子を指さしてくれる。座っていいのかな、二つしかないのに。
「あの、咲良ちゃん」
「うん?」
「その、一緒に住んでる人って……いつ、帰ってくるの?」
「ん、今日は家にいるよ。私が友達呼ぶって言ったら、楽しみだなーって言ってた」
咲良ちゃんは向かいには座らずに、私の横にクッションを持ってきて、座った。私も座って、こたつに足を踏み入れる。あったかい。熱い。
扉の向こうの廊下の方で、ばたんと扉の閉まる音がした。やがて足音がやってきて、リビングの扉を開く。ああ、困った、どんな顔しよう。咲良ちゃんの旦那さん……。
と思ったけれど、そこから現れたのは、髪を短く切りそろえて、愛らしい顔をした女の子だった。そして、私はその子のことを知っていた。彼女も私を分かっていた。一瞬呆けた顔をして、咲良ちゃんの方を見た。
「さ、咲良?」
「なに、千秋」
「友達呼ぶって、友達って、この人?」
「え、うん、そうだよ。紹介するね、この人は」
咲良ちゃんの言葉を、千秋さんは遮った。両手をぶんぶん振っていた。なんか、少し、怒ってる?
「いや、紹介されなくても分かるよ! 結城さんでしょ!?」
「結城じゃないけど、比奈のこと分かるの?」
「あそっか、結婚したから……ってそんなことよくてさ!」
「あ、あの、」
私も咲良ちゃんを見る。
「私も、分かるよ。千秋さんでしょ。比奈ちゃんのお友達の」
「二人とも、知ってたんだ」
「いや知ってるけど……知ってるけどさあ……咲良あ~」
「なんでそんなおばあちゃんみたいな顔するの、千秋」
「だってさあ、咲良、呼ぶと思わないじゃん。あんたの――初恋相手でしょ、この人」
「うん」
うん、って。私の前で、急にそんなこと認めるなんて。いや、たぶんそれどころじゃなくて、それは千秋さんにも言っちゃいけないことなんじゃないの、咲良ちゃん。でもそういう空気の読めなさが変わらなくて、それ自体はなんだか嬉しかった。
「なに認めてんの。すごいことしてるよあなた」
「すごい? いい意味? 悪い意味?」
「国が国なら死刑」
「うっそだ、千秋のばか」
千秋さんはため息を吐いて、私を見た。私はぺこりと頭を下げるくらいしかできない。でも、少し安心している自分がいた。
咲良ちゃんは、本当に私を呼んでくれただけだったのかもしれない。報告とか報復とか、そんなのなく。でも、なんというか……この、千秋という名の咲良ちゃんの初めてのお友達は、私のある種、恋敵だったし――千秋さんに至っても、たぶん私が恋敵だ。咲良ちゃんは、この場に、いちばん集めちゃダメな三人を集めたんだ。
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