第17話

 結城比奈とそのあと頻繁に会うようになったかといえば、そうではなかった。通学路で会うこともなく、高校は広くてすれ違うことも少ない。私はクラスの友達に誘われたらそっちに行ってしまうし、比奈は比奈で、すぐ家に帰らなければいけない。いつも比奈のことを考えているけれど、会えない。そんなことが多かった。


 もどかしい日々が続き、今日もそうして彼女のことを密かに思って過ごすのだろうとそう考えた。けれど、廊下の少し先のほうに珍しく一人で歩く結城比奈を見つけて、私の心は花びらを散らしたように舞い上がった。私が声をかけようとする前に比奈のほうが気づいて、小走りで駆けてくる。しかし、その距離が縮みきらぬ前に、私の手が彼女とは逆の方向に引っ張られた。


「みずみず、次移動だよ、はやく行こ!」


 私はそうして、私の手を引っ張って先を急ぐ千秋を見て、比奈を見た。その表情に息を呑む。彼女は嬉しそうに微笑んで、名残惜しさも見せずに、私に小さく手を振って背を向けた。彼女の背中を見る私の視線だけが、そこに思いを募らせたのだ。


 そういうようなことが、続いた。私が話しかけようとすると、比奈の友人が彼女を連れていく、比奈が私に話しかけようとすると、私の友人が私に話しかけてくる。ついに比奈は私を見つけても、簡単に手を振るだけになった。彼女はいつも誰かといるし、私も中学生の頃とは違って誰かといる。せっかく通学路で会えても、比奈は先を急ぐからと行って、先に行ってしまう。手伝えることがないか聞く暇も与えてはくれなかった。私は彼女になにをしたのだろう。そう考えると寝る夜も寂しい。胸に甘える女の子が欲しい。彼女にどこか冷たくされているような気がして、張り裂けそうな胸を押さえつけるのに必死だった。 


 やがて比奈の姿を見かけることさえなくなった。

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