第二部 プロローグ
入学式が終わった。彼女と同じ中学に、私は通い始めた。
小学校の卒業式や、中学校の入学式に関する思い出というのはほとんどない。長い話を聞いて、歌を歌って、それで寂しくなって涙を流すようなこともなかった。両親に手紙を書こうという学校側の企画にはうんざりしたし、ありきたりな「いつもありがとう、これからもよろしく」などとしか書かなかった。それを見た両親がどう思ったのかは分からないし、ましてや読んだかどうかも分からない。保護者の席から両親を探すようなこともしなかった。
私には、大した問題ではなかった。卒業とか入学とか、それで得られる祝いとか、私にはどうだっていいことだった。私にとって大切なのは、やっと、こうしてまた、結城比奈と同じ学校に通うことができるようになったことだけだった。紅く光る桜並木で胸がいっぱいだった。
毎日のように通学路で顔を合わせていたから、覚えていてくれるだろうかという心配は当然のごとく存在せず、私はまた学校で彼女を探して、目が合って、それで他愛もない話に花を咲かせられることが嬉しかった。そして入学式を終えた普通の登校日には、通学路で私が中学に入学したことを祝福してくれた。私が入学を何らかのお祝いごとだと気付けたのは、それが初めてだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます