2-1
どれだけの時間が経ったのか。
ロクタは戻って来た意識に、ゆっくりと目を開ける。倒れた時に強く打ったのか、頭はフラフラするし視界もぼうっと焦点が合わない。
どうやら目の前をばたばたとたくさんの人が行き交っているようだ。
ここは、どこだろう……?
ロクタはそのうち一人の男を視界の真ん中に捉えた。
(あれはお父様だ……)
ふわふわと漂うような意識の中でロクタははっきりとそう思った。
(え?……いや、あれは父さんじゃない。なんで僕、”お父様”なんて思ったんだ……?)
「ロクタ」
男はいつの間にか近づいてきていた。時代物の映画でしかみたことのないような、ピシッとした燕尾服を着た男は、ロクタの顔を覗き込んだ。
そして確かに、ロクタの名前を呼んだ。
「ロクタ、急ぎなさい」
男の低い声が頭の中にこだまする。なぜかよく知っている、この声。
…………。
「はい、お父様」
自分がそうしたのか、しないのか、次にロクタはそう答えていた。
「もう皆支度は済んでいる。さあユーゴの隣へ」
ユーゴ……? ユーゴって、あれ、僕の友達じゃなかったか。
そう思うと、揺らめく視界のなかに確かに ”ユーゴ” はいた。
彼は振り向く。
「ロクタ」
その声を聞いた瞬間、ぱん!とシャボン玉が弾けたように、ロクタのくぐもっていた意識が一気に鮮明になった。同時に耳の栓が抜けたように周りの音も鮮明になり、ざわざわと賑やかな雰囲気に包まれる。
ああ、今日は大事な晩餐会の日だった。
ロクタは思い出した。
招かれた客人たちはすでに大広間に集まっているだろう。使用人たちが客人の要望に沿うために小部屋を行ったり来たりしているなか、ユーゴはいま支度を終えたようだった。しっかりと上げられた前髪と、新しく仕立てられたタキシードスーツがよく似合っている。
「どうしたの。緊張してるの?」
ユーゴはロクタを見てふふ、と笑う。
「ううん、別に」
緊張は全く感じなかった。このような場に慣れてしまったのだろうか。
いや、慣れる?僕がいつこんな場に出席したんだっけ……?
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