1.
樹齢五十年は越えているような樹木たちに囲まれた『幽霊屋敷』は、なるほど、噂されるほどの風格を持ち合わせていた。どっしりと構えた煉瓦造りの洋館は、長い年月で蔦に覆われ森との境目を無くしている。想像よりもはるかに大きな屋敷だった。
「おーい、あっちから入れるぞー!」
洋館を見上げていたロクタを置いて、ユーゴとサブロウが侵入口を探していた。
怖がりなハジメとダンがお互いに付かず離れず後を付いていく。アルはそんな二人をからかっては、あちらこちらへ懐中電灯を向けた。
ふたりが見つけた入り口は、洋館の脇に入って進んだ中庭の方にあるようだった。腰の高さまで伸びた雑草の間をなんとか通っていくと、崩れた噴水やアーチの骨組みが現れた。手入れされていた頃はさぞ美しい庭園だったのだろう。
(どんな人が住んでたんだろう……)
ロクタは通り抜けながらなんとなくそんなことを考えた。
ガラスが風化し、ぽかりと口を開けた窓から順番に侵入する。中に入ると、長い間そこにうようよと淀んでいただろう空気の、むんとした匂いがした。屋敷内に残された物はなく、自分たちと同じように冷やかしで来た誰かが残したゴミや意味のないガラクタが点々としているだけだった。
「ああ、来なきゃよかった……」
室内に入ってみれば、暗闇はより濃くなったようだった。懐中電灯の明かりなしでは歩くのも一苦労だ。
仲間のなかで最年少のハジメは完全にダンにくっ付いて縮こまってしまっている。
「ハジメ、俺が歩き辛いだろ~。怖いなら入り口で待ってる?」
「それの方がもっと怖いよ! それに、こういうところはそういう幽霊……なんかよりも、人間がいたらもっと危ないんだって……」
ハジメはなにもない暗闇にびくびくしながら言った。
「……いまさらそういう怖いこというなよ」
一向に緊張が走ったあたりで、長い廊下の突き当たりに差し掛かった。
両開きの一段と大きな扉だ。塗装はほとんど剥がれてしまっているが、もともとは白色だったようだ。
ユーゴがみんなに合図して、ゆっくりと扉を引く。ズズ、と引きずるようにして扉が開くと、目の前に開けた空間が現れた。がらんとした体育館のようなそこは、大広間のようだった。
吹き抜けの天井まで届く大きなアーチ型の窓は、静かな月明かりを取り入れて大理石の床を白く照らす。今では色褪せてしまった壁紙や彫刻で縁取られた窓枠が、当時はよほど華やかな内装であったことを伺わせる。埃をかぶった額縁にも、きっと相当な絵画が飾られていたのだろう。
6人は思わず感嘆した。
「すっげえ。こんなとこがあったんだ」
「映画のセットみたい」
ところどころ壊れた床と剥がれ落ちた天井で荒れてはいるが、ここはきっと当時とほとんど変わってないのだろう。
しばらく大広間を見学していると、一辺の壁に大きな鏡が掛けられているのを見つけた。その鏡は6人が全員映るほど大きいのに、不思議とどこも割れていないようだった。
「変なの」
ロクタはそう呟くと、鏡に向き合った。
そして何気無く、鏡の中の自分と目を合わせた瞬間だった。自分以外の周りの景色が歪んだかと思うと、くらりと眩暈を覚えて、その場に倒れる感覚がした。
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