第45話 さて、行くか──

 さて、金が無くなったな……。


「──エマ、稼ぎに行かなければならん。来年の上納金も必要だしな。残りは金貨2枚と銀貨50枚ぐらいだ」


「高級宿は諦めて、普通の宿なら1人銀貨1枚から2枚ぐらいなので、しばらくの生活は問題ないですが……上納金が非常に拙いですね……」


「この街の依頼で上納金を稼ぐのは不可能だ。アガラスだったか? そこなら稼げるんじゃないか?」


「──危険度A〜Sのダンジョンしかありませんよ? レイさんなら余裕でしょうが……」


「てっとり早く稼ぐにはそれしかないだろ?」


「確かにそうなんですが……」


「──大丈夫だ。俺が守ってやる。お前はいつも通り面白ろ可笑しく慌ててたら良い。それに転職してそれなりに強くなっただろ?」


「誰のせいで慌ててると思ってるんですかねぇ!? しかもレイさんとしか戦ってないから強くなったかわからねぇですよ!」


「そんなもん道中でわかるだろ。とりあえず、旅をする為の道具と食料はある。さっさと行くぞ」


「えっ!? 今日ぐらいゆっくりしないんですか!? あと数時間で日が暮れますよ!?」


「エマ、時間は有限なんだぞ? 別に日が暮れても死ぬわけじゃないだろ?」


「いやいやいや、こんな時間から出ても次の街に辿り着けないですよ! 野宿確定じゃないですか! ベットで寝たいです!」


 こいつ……。


「……さぁ行くぞ……」


「いーやーだーっ!」


 俺はジタバタと暴れるエマの首根っこを掴んで歩き始める──


 逃げようとしない事から、口だけなのだろう。


「うぅぅ……おんぶ!」


「……何で?」


「歩きたくないです! ほら、司祭は助祭を面倒見る役目があるんですよ? 愛しい助祭を助けて下さい♪」


「運ぶのは含まれないだろうに……しかも愛しいって……このまま引き摺るぞ?」


「今日だけで良いですから! 明日からはちゃんと歩きますから!」


「ったく……しゃーねーな……」


 俺はエマを背中に乗せる。


「やったぁ! 言ってみるもんですね!」


「……今日だけだ……」


「レイさん──」


「何だ?」


「ちゃんと守って下さいね?」


「あぁ、出来る限り守ってやるよ」


「ありがとうございます……これは守ってくれるって言ってくれた報酬です……」


 ちゅっ


 エマの唇が右頬に触れ、そのまま俺を抱きしめる。


「未来の彼氏にとっておけよな……」


「……」


 エマは顔を埋めて何も話さない。


 自分でしておきながら恥ずかしいのだろう。


 まぁ、俺もキスは頬といえど初めてだ。なんかむず痒い。


 だから、仕返しをしよう。


「こういうのって背中に柔らかい感触がしたりするんもんなんだけどな……」


「むぅ、失礼な事言いやがりますねぇ!? ちゃんと胸当ててるでしょうが!? 私は巨乳じゃねぇっすけど、普通ぐらいの胸はあるんですよ!? このサービス精神を返しやがれです!」


「ふふっ」


「これからちゃんとレイさんが食べさせてくれたら肉付きだって良くなるんですからねっ!」


「そうか、なら頑張って稼がなきゃだな?」


「そうですよ? 私の胸の為に!」


「なら前衛任せたからな? 俺は後衛職だからな。頑張れよ?」


「──何言ってやがるんですかねぇ!? そんなに強い後衛職なんて詐欺なんですけど!? でも──少しぐらいなら頑張るです……だからこれからもよろしくです……」


「あぁ、こちらこそ世間知らずな俺のサポートよろしくな? よっと──」


 俺はエマを前に持って来て──お姫様抱っこにする。そしてエマと目が合い、俺は笑顔で言うと──


「任せるです……」


 また恥ずかしそうに顔を俺の胸に埋める。


 そのまま、俺はエマを尻目に進んでいく。



 しばらくはこのままでも良いだろう……。


「ベル、スレイ、アルファ、ベータ、ガンマ──」


「「「了解」」」


『黒の書』から出ている5人は俺の意図を汲み取って警戒と討伐に行ってくれる。


 俺は振り返り、街を見るともう大分小さくなっていた。


 思い起こせば──


 街に来て、美人の聖女さんを助け、その時に自分の成りたい職を見つけた。そこではなれなかったが……。


 その後にエマと出会って、一度は諦めかけた支援職に転職した。後衛職なら戦わなくて済むと思ったのに普通に前衛で戦ってるけど……。


 そして誘われてリディア教に入ったら『黒の書』を貰った。呪われてる気がしたが……。


 最初の頃はなんとか『黒の書』の外せないかなとか考えていたが──今ではなんやかんやで出した奴らに愛着が湧いた。いつ寝首をかかれるかわからんけど……。


 それと上納金を納める為に司祭なんて役職をさせられているが、それでも良いかなと思っている。上納金が高いけど……。


 街に来た時は1人だったのにな……短い付き合いの奴らばかりだが、こうやって仲間がいるというのは賑やかで良いものだ。


 この先も仲間が増えるかもしれないと思うと旅も楽しみになってくる。


「レイさん……ずっと一緒にいて下さいね……」


 ふとエマからそんな声が聞こえてきた。


 どうやら寝てしまったようで寝言を言っている。


 俺は苦笑する。


 エマは守銭奴で心配性だし、ちょっと煩いけど──悪くない。


 外の世界に出る時に少しばかり不安ではあったが、故郷以外で好意という物を初めてくれて俺を助けてくれた存在だ。


 こいつの為にも頑張ろうと思う。金を稼いで腹一杯食わせて、良い宿に泊めてやれば──満面の笑みを浮かべてくれるだろう。


 それが、外の世界の面白さを教えてくれた恩返しだ。


 そういえば、リディアの声ってまだ聞いてないな……いつ聞こえてくるんだよ……。



 ──!? 耳鳴りがする……なんだ?


 (あの子達をよろしくね? 『黒の司祭』くん?)


 ──!?


 これがまさかリディアの声か!?


 透き通った声だな。あの子達というのはきっと、『黒の書』の中にいる者達だろう。


『黒の司祭』──か……制服もフードも真っ黒だし、俺の使う魔法も黒いからな……まぁ、それも良いだろう。


 リディアと『黒の書』の関係性も気になる……その内わかる日が来るのだろうか?


 今はそれより──


 リディアの声が聞けて満足だ。


 次は声だけでなくて会ってみたいな……そしてあわよくば嫁に来て欲しい。



「浮気は許しませんよっ!」


 エマはまた寝言を言っている。


 エマの夢ではきっと彼氏がいて浮気をされているだろう。可哀想に……。


 こいつに、いつか現実で彼氏が出来ると良いな。


 リディア教にいる限り──というかあの父親がいる限り無理そうだが……。



 さぁ、のんびりと楽しみながら旅をするか──



 俺は前を向き、再度歩み始める──







────────────


賛否両論あるかと思いますが、ここで完結になります。

ここまでお付き合い頂き誠にありがとうございます。

ここまで読まれた方は是非、フォローや下の★評価、レビューなどでカクヨムコンテストを応援して頂けると嬉しく思います。既にされたという方々は応援ボタンもポチッとしてもらえると励みになります。


そして、次作の新作である──


オペレーション✖️シールド 〜僕だけが使えるスキルの裏効果と派生を駆使して最強を目指したいっ!けど、何故か艶っぽい声に耐える日々に……〜


──を後程、投稿していますので★やフォローでカクヨムコンを応援して貰えると嬉しいです。

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