第43話 鎮火せねば!

「レイさん──守って下さいっ!」


 エマの唐突な言葉に疑問符が浮かぶ。


「え? 久しぶりに会ったんだろ? こっちに近付いて来てるし、挨拶ぐらいしたらどうだ?」


「エマちゃ〜ん! 愛しのパパだよ〜!」


 そんな事を大声で叫びながら、こっちにエマパパは走って近付いてくる。


「ほら、すんごく嬉しそうに近付いて来てるぞ?」


「レイさん──守ってくれるって言ったの嘘なんですかねぇ!?」


 そこまで嫌なのか??


 俺の後ろに隠れるエマ。


「きっさまぁぁぁぁっ! わしのエマちゃんに何をしたぁぁぁぁっ!!!」


 うわぁ……俺の方睨み付けてるじゃないか……。


「──ちっ。ベル──拘束しろっ!」


 首目掛けて短剣を突き刺して来たのでスレイで弾き、ベルに命令する。


 ベルなら問題ないだろ。


「なんだこの蝿はぁぁぁっ! わしとエマちゃんの邪魔を──するなぁぁぁっ! 鬱陶しいっ!!!」


 短剣をもう一本だして二刀流にするエマの父親はかなりの速さで蝿を斬り刻んでいく。


「ベル──加勢は必要か?」


「そうですね……本気出していいなら必要無いですよ?」


 つまり、本気を出してほしくなければ加勢しろという事だな……ここが吹き飛ぶとまた弁償しないといけなくなるし、加勢一択だろう。


「……じゃあデバフするわ──『弱体化』──……速くて当たらんな……霧で行くか……」


「──これは!? ちっ──」


「むむ、これも簡単に避けるのか……ベル──バフをかけてやるから頑張れ」


「いや、遠慮しておきます」


「いや、そこはお願いしますだろ!?」


「……レイさんのバフってあんまり効果ないでしょ? ぼちぼち本気出しますよ?」


 ……なんたる事だ……ベルにまで言われてしまった……。


「いや、待て。ここが吹き飛んだら困るから、俺が介入する」


 こうなればデバフの『黒勢』を俺の周囲に纏うしか無いな。自分にはデバフの効果は無いっぽいしな。


「いくら敵が増えようが、わしの娘への愛の前には全てが無駄だっ!!! ──!?」


 エマの父親の一撃をスレイで弾いた瞬間──俺のデバフが付与された『黒勢』に触れる。


 4割減のデバフだし、効果は抜群だ。


 動きが格段に悪くなったエマパパはベルの蝿に拘束される。


「ふぅ……これで話ぐらいは──「てめぇぶっ殺すぞ!? これを解きやがれっ!」──……話なんか出来やしねぇな……エマなんとかしてくれ」


「話すのが嫌です」


「エマちゃん!? パパだよ!? 忘れたの?? パパがお風呂だって入れてたじゃないか!」


「──喋るな」


 とてもエマの声は低い。


 全然強く無いのにこういう時だけ、強者のような雰囲気だな。


「──エマちゃんっ! その指輪は!? 誰がわしのエマちゃんに手を出したんだっ! 絶対殺すっ!」


「いいから黙れ」


「──……」


 今度はエマの言う事を聞いたな。


 見た感じ親バカっぽいし、指輪がどこかの男から送られて婚約したと思っているのかもしれないな……。


「えっと──エマのお父さん?」


「だっれがお父さんじゃっ、われぇっ!」


「いや、あんたエマのお父さんじゃねぇのか?」


「いかにもわしがエマのパパだっ!」


 なんか、こいつめんどくせぇな……。


「……お父さんて言われるのが嫌なら名前教えろ。俺はレイだ。お前と同じリディア教で司祭をさせられてる」


「確かに一理あるなっ! わしはエヴァンだっ! わしは司教だなっ! つまりわしの方が偉いっ! 平伏すが良いっ! そしてこれを解けっ!」


「エヴァンね……別に俺は司祭になりたいわけじゃなかったし、平伏す気はないな。それに拘束解いたら絶対襲ってくるだろうに……」


「当たり前だろうがっ! エマちゃんの反応からお前が指輪を送った犯人だろうがっ! というかペアリングじゃねぇかぁぁぁっ! 絶対殺すっ! わしのエマちゃんは誰にも渡さんっ!」


「もう喋るな」


 エマの低音ボイスが炸裂する。


「……」


 エマには従順なのか?


「……この指輪は古代魔道具なんだが……弱いエマに買ってやっただけだぞ?」


 エマパパから殺気が少し弱まる。弱まっているだけで消えてはいない。


「……何故ペアリングなのだ?」


「たまたま売っていたのが2つセットだっただけだが?」


 更に殺気が弱まる。


 もう少しか?


「……エマちゃんの左の薬指についてる理由は? お前は彼氏じゃないのか?」


「本人に聞け。俺は彼氏じゃない」


 俺がつけたわけじゃないから知らん!


「エマちゃん?」


 エヴァンはエマに聞く──


「……レイさんは私の彼氏ではなく──伴侶です!」


 嘘八百だな!


「……うぉいっ! このクソ虫がっ! 絶対殺すっ! 可愛いエマちゃんの初めて奪いやがった罰を与えてやるっ!」


 鎮火されかけた殺気は燃料を投下され、炎の如く──燃え盛る。


 これはもう、物理で鎮火せねばなるまい……。


「とりあえず、頭冷やせ──『水流』──」


「あばばばば──」


「少し落ち着いたか?」


「何しやがる! エマちゃんに付く虫は必ず──ぶっぼぼぼぼ──」


 まだ落ち着いていないので再度『水流』を当て続ける事にした。


 正直、関わり合いになりたくない。


 俺の家も大概だと思うが、エマも大変なんだな……。


 俺はエマに優しい視線を送る。


「その失礼な目をやめるですよ!」

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