第42話 懐かしいな……

「まさか肉であの場を収めるとは……」


「人は腹が減ると心が貧しくなる。スラムは貧しいんだろ? 腹が膨れれば活力が湧くさ」


「まぁ、確かに私もレイさんと出会う前は常にお腹減ってて元気なんか皆無でしたし、この世に絶望してましたが……」


「……お前どんな暮らししてたんだよ……」


「上納金のせいで生活が困窮してたんです! 確かに今はレイさんのお陰でお腹いっぱい食べれて幸せですけどね」


「まぁ、そういうことさ……腹さえ膨れればあいつらもまた頑張れるさ。もう豚肉(子供)がなくなったし、狩りに行かないとだな」


「僕は常に腹減ってますよ?」


「ベル……お前は特別だろ……なんで大量のゴブリン食ってんのに腹が膨れないんだよ」


 そんな会話をしながらイビル教会がいるであろう家に到着する。それなりに大きい家だ。


「血の匂い──」


 エマも血の匂いが分かるようだ。


「──それと戦闘音が聞こえてくるな。ベル何か状況が変わってるのか?」


「どうやら、1人の男が先程現れたようで戦闘になっていますね。強いですよ」


 仲間割れでもしているのか?


 ベルが強いと言うぐらいだ。油断は出来ないな。


「とりあえず中に入るか……エマは俺の後ろから離れるなよ? ベル先に行け」


「何気に僕を先に行かせるんですね……まぁ良いんですけど」


「お前が一番強いだろうが……別に俺が先に行っても構わんけどな。代わりにエマを守れ──「レイさんが良いです!」──という事らしいからベルが行け」


 間髪入れずに俺を所望するエマ。


 ベルは扉を開けて入って行き、俺も後から遅れて入る。


 すると──男2人が激しい接近戦を繰り広げていた。


 1人は──リディア教の人間だろう。あのフードはリディアしか使わないと言っていたしな。それにフードが捲れる度に骸骨が鎌携えてるシンボルマークがチラチラ見える。確定だな。


 もう1人がおそらくイビル教の人間なんだろう。とても暗い感じのする人だな。根が暗いのだろう。


 2人とも少し前の俺より強いな……。


 エマは酷く驚愕した表情を浮かべている。おそらく、あのリディア教徒は知り合いなのかもしれない。


 しかし、母さん達の言った通り、世の中強い奴はちゃんといるんだな……。


「レイさんどうします?」


「とりあえず──あそこらへんにいるイビル教の奴ら捕まえてくれ。エマ──お前の顔から察するにあのリディア教徒は知り合いか?」


「了解」


 ベルは蝿を出して捕縛しにかかる。


 そしてエマは言葉を紡ぎ出す──


「……お父さんです……」


 ……確かエマの父親はリディア教のじゃなかったか?


 こんな所まで何しに来たのだろうか?


「……お前に会いに来たのか?」


「いや、たぶん──イビル教徒を潰しに来たんだと思います。司教の仕事にそれが含まれてますから……お父さんと渡り合えている事から相手もまた司祭以上かと……」


 司祭以上はどの教会も強くないとなれないのか疑問に思う所だな……。


「司教になると、また仕事増えるのか? 絶対なりたくねぇな……」


「上納金も上がりますよ? ってそんな事言ってる場合じゃねぇですよ! どうするんですか!?」


 どうするって言われてもな……人の獲物横取りするわけにもいかんしな……。


「静観かな? そもそも、リディア側に加勢するとしたとしても──必要なさそうだろ……」


 エマの父親の方が優勢だ。むしろ俺達が入る方が邪魔になるだろうな。


「確かに……お父さん、凄く強いですからね……」


「という事で観戦だな。ベルはそいつら逃がさないように捕縛と監視をしといとくれ」


「はいよ〜」


 ベルは返事するとイビル教徒で遊び出した。


 目の前の戦いはヒートアップして行く。


 お互いの武器は短剣だ。


 エマの父親の方が一枚上手だが、相手もただやられるばかりじゃない。隙を突いて急所を狙ってきている。


「懐かしいなぁ……」


「何がですかねぇ?! この異常な戦闘に懐かしむ要素があるんですかねぇ!?」


「いや、故郷でこんな感じの訓練が毎日行われていたからな……よくこんなのやってたなって……」


 俺は遠い目をする。


「これは訓練じゃないですよ!?」


「実戦訓練だと言われていたな……」


「……死んでしまう可能性がありそうですが?」


「これがまた相手が強すぎるから──寸止めされるんだな……俺はヤる気満々でも当たらないんだよ……」


「まるで私がレイさんに模擬戦を挑んでいるような感じですね……」


「あぁ、なるほど。上手いこと言うな! まさしくそれだ!」


「……まぁ、気持ちはよくわかりました……」


「とりあえず、お前の父親は勝てそうだな」


「そうですね……お父さん手加減してますし……普段短剣一本だけとか使わないですから……」


「へぇ〜なら余裕だな。なんかこっちに気付いてエマの方見てるぞ?」


「……本当ですね……嫌な予感がします……」


 嫌な予感て……そんなに仲が良くないのか?


「──イビルの亡者よ! さっさと寝ろっ! 愛しのエマちゃんに会えんだろうがぁぁぁぁっ!」


 一瞬にしてイビル教徒の顔面に拳を入れて吹き飛ばすエマの父親。


 言葉から察するに仲は悪くなさそうだな……。


 とりあえず──わかったのは親子愛が強すぎるという事ぐらいだろう。


 なんせ、今は俺に対する殺気がひしひしと感じるからな。

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