第41話 肉は心を救う

 エマの我が儘でまた高級宿に泊まった。その時に「初夜なんで優しくして下さい」とかわけのわからない事を言っていたが、「初夜は結婚した人にしか訪れないぞ?」と伝えると歯噛みしてた……。


 まぁ、そんな一悶着があったが、別々の部屋で休んだ。


 そして、今は朝だ。


 ノックの音と共に宿屋の店員が声をかけてくる。


「レイ様、お客様が来られています」


「わかった。直ぐに降りると伝えてくれ。ベル行くぞ」


「はーい」


 この高級宿はこういう来客にも対応してくれるのがありがたいな。


 きっと、騎士団長が金を取り立てに来たのだろう。あの後は誰か数人ぐらいにつけられていたとベルから聞いていたからな。場所を把握していた事はわかっている。


 俺は別室のエマを置いてベル達と共に下に降りる。



 店員さん達は騎士団がいる事に疑問符を浮かべている。


「おぉ、司祭殿っ! お待ちしておりました。この宿に泊まれるという事はあの件は大丈夫ですな! さすがはリディアです」


『司祭』と『リディア』の言葉に反応する店員さん達。その瞬間に俺に対する視線が変わる。


「あぁ、もちろんだ。待たせたな。これが約束の物だ」


 俺はもう慣れてしまったので特に店員さんに気にせず話し出す。


 金貨50枚を騎士団長に渡す。


「ありがとうございます!」


 残り金貨35枚ぐらいか……いや、正確には約金貨37枚だな。この宿屋1人一泊金貨一枚するんだよな……。


「今回は迷惑をかけたな。こいつらのせいで」


「仕方ないじゃないですか……誘拐とかしてくる輩がいたんですから……」


 ベルは悪くないと言い張る。


「その件についてお礼も。今回、イビル教会が関係していたみたいでして、捕縛した者から裏も取れております。最近、行方不明者が多かったので調査していたのですが助かりました」


 ……イビル教会って誘拐とかもやってるのかよ……ろくな集団じゃねぇな。


「そいつらは一掃出来たのか?」


「まだ調査中でして……」


 なら、少しぐらい手伝ってやるか……ベルなら余裕だろ。弁償代金も安くしてくれてるからな。


「ベル──見つけてこい」


「オークキングの肉を所望します」


「わかった。さっさと捕まえて来い。騎士団長──今からベルが捕縛するから、騎士団長は団員集めて待っててくれ。場所はアストラが炊き出ししてる広場で良いだろ。昼頃には終わらせる」


 ベルは蝿を飛ばす──


「──なんと!? そんな事が可能なのですか!? 街の治安を預かる者として感謝を!」


「今回、この国に迷惑もかけたし、どう考えても弁償代が安いからな。これぐらいはサービスだ」


「ありがとうございます! 奴らは中々尻尾が掴めなくて……では、団員を集結して待っております!」


 慌てて宿から出て行く騎士団長。


 さて、後はベル次第だな。


 しばらくするとベルが声をかけてくる。


「レイさん……僕が出ます。殺す許可を──」


「物騒だな。何か問題が?」


「1人──見た感じ、手加減して捕縛出来ません」


「ベルが暴れたら街が崩壊するだろ……俺も行く。時間稼ぎしといてくれ」


 俺はスレイ(剣)とベス(子犬)を『黒の書』から出す。


「お前らも原因なんだから手伝えよ」


『……仕方あるまい』


「「「わん」」」


「さぁ、ベル案内してくれ。ベスはエマ起こして追いかけるように」


「「「わんっ!」」」


「こっちです──」


 俺達はイビル教会のいるであろう場所まで向かう。





 しばらく進むと、スラム街に到着する。


 エマも途中から合流している。


 スラム街とは貧しい人達の暮らす場所だと先程エマから聞いている。確かに見ていると服はボロボロだし、満足に食べれていない人が多い気がする。


 何より、まだ入り口だというのに柄が悪い。全ての人が俺達に悪意を向けている。


 それに監視されているようだ。


「レイさん……帰りたい」


「しかし、イビル教会の奴ら捕まえんといかんからな……我慢しろ」


「だって、ベル君が本気出さないとダメな敵なんですよね? 私いらなくないですか?」


「いや、いるだろ。いつも通り騒がしくしてくれたら良いぞ? それにベルは捕縛が難しいだけだろ」


「私に何を求めてるんですかねぇ!?」


 2人でいつものやり取りをしているとスラムの男が目の前に現れる。


「兄さん──金くれねぇか? それかその女の子でも──ぐぼぼぼぉぉぉ──」


「うおっ──レイさん、容赦がねぇですよ!?」


 エマの言う通り、俺は問答無用で声をかけて来た男達に古代魔法の『水流』を発動する。


 人が地面で溺れるという不思議な現象が起こっているな……。


 2回目だし、少し慣れたな。


 大規模な魔法で辺り一帯が水で流されたが、悪意を向けて来た者達には容赦はするつもりは無い。


「ベル、女子供は非難させたか?」


「合図ぐらい下さい……」


 いや、お前ならわかるかなって。


「まぁ、非難出来てるなら問題無い」


「レイさんは脳筋か何かなんですかね!?」


 エマが失礼な事を言う。


「いや、俺悪意とか向けられるの嫌いだし。しかし、次から次へと出てくるな……面倒臭い……昼までに間に合わなくなるじゃないか」


「……エンブレムつけたらどうです?」


「そうだな。エンブレムつけるか」


 俺は必殺アイテム──リディア教司祭のエンブレムを装着する。


「「「……」」」


 エンブレムを見たスラムの男共は立ち止まる。


「俺に敵対する者は向かって来い──敵対しないのであれば──この豚肉をやろう」


 俺は豚肉(子供)を出してやる。


「何故、ここでオーク肉!?」


「エマ……こいつらはきっと腹が減っているから気が立っているんだ。腹が膨らめば穏やかになるさ。俺も腹が減ると不機嫌になる」


「……それはレイさんだけなのでは?」


 そんな事ないだろ……。


「逆らわなければこれをくれるのか?」


 スラムの男は肉を見つめながら言う。


 ほら見ろ! 肉が欲しいらしいぞ!


 俺はドヤ顔でエマを見ると悔しそうにしていた。



「あぁ、その代わり俺の邪魔をするな。そして、女子供を優先して分け与えろ。俺の使い魔が見ているから違反した奴は酷い目に合う。お前偉そうだな? お前が分け与えろ」


「確かに俺はここらを取りまとめているが……わかった……約束しよう……」


 その後、スラムのリーダーらしき奴が豚肉(子供)を配給し、その間に俺達は先に進む──

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