第39話 これも古代魔道具か

「レイさん、ちなみにあのイビル教徒が持ってた腕輪の性能は試しましたか?」


 ベルがふと、そんな事を言う。


「試してないぞ? あれって補助道具だろ?」


「確かにそのはずなんですが、古代魔道具の可能性もあるので確認しておいた方がいいかと」


 そうなのか? 俺は腕輪を取り出す。


 見た目は賢爺に昔貸してもらった腕輪と似ている。


 古代魔道具なのだろうか? 確かに賢爺はオリジナルを見て自分で作ったと言っていたし、そういう物が売ってあるとも聞いているからな……。


「エマ、調べてくれ」


「はいはい〜──って古代魔道具ですね……効果は──古代魔法陣を記憶させる事が出来るみたいですよ? 古代魔法陣を知らない人が持ってても意味がない道具ですね」


「なら、俺は使えるな」


「レイさんって失われた古代魔法が使えるんですか!?」


 エマは驚いた表情をする。


「故郷で教えてもらったからな。ただ時間が凄いかかるんだよ。魔法陣がまず細かい……実戦では初級の攻撃魔法ぐらいしか使えないんだ。ちなみに賢爺曰く、今の魔法は古代魔法を簡略化した物らしいぞ? 魔法陣さえ覚えてしまえばどの魔法も使えるらしい」


職業ジョブあんまり関係ないって凄いですね! そもそも古代魔法ってどうやって使うんですか?」


「うーん、何と言えばいいんだろか……根本的な所が今の魔法と違うっぽいんだよな……職業ジョブを習得して思ったのが、必要な魔法とか技は転職すると頭の中に入ってくるだろ?」


 確か、転職した時に魔法陣が頭に刻まれる感じがしたし、技というか護身術が頭に入ってきたのを覚えている。まぁ、護身術なんて元から出来るから意味がなかったけど。


 一応、支援術師の特性は【魔力強化】っぽいのはなんとなくなってみて把握したけど。


「入ってきますね」


「あれおかしいんだよな……賢爺曰く、魔法陣があって初めて魔法が使えるらしんだよ。俺の使ってる【支援魔法】とかは既に構築された魔法陣が頭の中にあって、魔力を込めると発動出来ている。一から魔法陣を組み立ててないんだよな……ベルは何か知らないか?」


「あぁ、それならわかりますよ。大昔に大規模な戦闘があった時に──自分を守れない弱き人々を神の1人が職業ジョブを作って守れるようにしたと聞いてます。その時に簡略化されたんだと思いますよ? その職業ジョブという奴を習得すると簡略化した魔法陣が頭に刻まれるらしいです。だから言葉を発したり、魔力を込めるだけで使えるんですよ」


 なるほどな……つまり、今では職業ジョブが定着して、面倒臭い古代魔法の使い手がいなくなったんだろう。


「ベル、サンキュー。少し疑問が解消されたわ」


「いえいえ」


「つまりどう言う事なんですか?」


 エマは今のでわからなかったようだ。


「つまり、職業ジョブで得れる魔法は簡易版な上に誰でも使えるようにされているって事だな」


「ほへ〜神様って凄いんですね……」


「そうだな。その大昔はきっとそうでもしないと生き残れなかったんだろう。全人類を底上げする為の手段だったんだろうな。確かに職につくだけで戦い方がわかったり、能力値が上がるのはありがたい事だしな」


「確かにです! レイさんが前衛職についたら凄い事になるんじゃないですか?」


「……どうだろ? 母さん達に勝てないのは変わらない気がするな……俺は俺の道を進むさ……」


「レイさんのお母さんって聞く度に思うんですけど、おかしくないですか?」


「おかしいな……母さん(怖い方)より強い人は見た事がない……連れ戻しに来られたら終わりだな……」


「まぁ、今の所は大丈夫なんでしょ?」


「たぶん……来てもベルが頑張ってくれたら見捨てて逃げるから問題無いだろう……」


「えっ!? 僕ですか?! しかも置いてけぼり!?」


「今の所、お前しか渡り合えん……いや、不完全な状態だと蹂躙されるかもしれんな……だが、勝手に本に戻れるなら置いていっても問題ないだろ」


「……早く僕の力を戻して下さい……」


「どうやって戻すんだ?」


「前も言いましたけど、その本と黒い魔力を使いこなしていくと俺達も自然に元の強さに戻ります……」


「頑張るわ……ベルは俺より強いけど、母さんには余裕で負けるだろうからな……」


「不完全な大悪魔でも蹂躙されるんですか……恐ろしい……」


 エマの呟きに俺とベルは軽く凹む。


 ベルは確かに強い……だけど、それなりに戦う場面を見たり、たまに模擬戦をしてもらったが──母さんよりは弱いのは確信した。出来て時間稼ぎだろうな……。


 まぁ、戦わないとわからない事もあるけどな。


「とりあえず、これ使ってみるか……」


 俺は腕輪をはめる。


 すると、頭の中に属性別の基礎魔法陣が入って来る事を確認する。


 ここまでは賢爺の補助具と同じだ。


 俺は腕輪をはめた手を前に出すと──


 腕輪を支点に基礎魔法陣が展開される。この機能は補助具には無かったな……あれは単に覚える為にあるだけだった。それを見ながら指で描いてたからな……。


 どう使うんだろうか?


 俺は試しに危険の少ない【水魔法】の『水流』の古代文字を頭に思い浮かべてみると自動で記入されていく。


 ……なるほど……ここから更に描き込む事が出来るのか……。


 すると、多少時間はかかったものの、昔に使った時よりかなり早く魔法陣が完成する。


「──『水流』──げっ、マジか……」


 昔にに出した事がある以上のデカい黒い水球が出来上がっていく。


「レ、レイさん……これ──ヤバくないですか? 通常の『水球』の10倍以上大きいんですが……しかも毒水っぽいし……」


 あまりの大きさにエマが驚く。ただ、これは『水球』ではなく──『水流』だ……水で押し流す魔法だな。毒水と言われれば確かにそうかもな……。


「そうだな……辺り一帯が水浸しになるな……」


 今も膨れ上がる水球……なんか昔に使った時よりも威力がヤバそうだな……『』使ってるからか?


 このまま放つわけにも行かないしどうしよ?


「レイさん、早くキャンセルしないと被害が半端ないですよ?」


 エマ……それぐらい俺もわかってるんだ……だが──


「なぁ……キャンセルってどうやるんだっけ?」


「「はぁ??」」


 ベルとエマはポカンとする。


「いや、やり方知らないんだよね……いつも失敗する時は暴発させてたし」


「何言ってくれてんですかねぇ!? やべぇじゃねっすか!?」


「そうなんだよな……しかも、これがんがん魔力吸い取られて行くわ……」


「──レイさん、喰いますよ?」


「あー、その手があったか!」


 蝿が空中に漂う水球を喰らい始める。


 これで一安心だな……だけど、自動回復の指輪のお陰でまだ余裕で魔力込められるな。


「ちょ、レイさん止める気があるんですか!?」


 蝿を増やすベル。


「何また魔力込めてやがるんですかねぇ!?」


 エマも俺のしている事に気付いたようだ。


「いや、どこまで行けるか気になってつい……ベル、どちらが勝てるか勝負だ!」


「あんた馬鹿なんですかねぇ!?」


 エマの声が響き渡る中、俺とベルは不毛な勝負を行った。

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