第37話 査定額

 さて、もう査定がぼちぼち終わっているだろうと、俺とエマは冒険者ギルドに向かっている。


 今日のエマは大変早起きだった。いつもなら起こしても起きないのに指輪という物欲が働いているようで日が昇る前から起きていた。


 まるで子供だ。煩くて仕方ない。


 まぁ、その事を告げるとまた怒鳴られたりするから何も言ってないんだが……。


「金♪ 金♪ 指輪♪ 指輪♪」


 道中だと言うのに大変煩い。


 周りの人が痛い子を見るような視線を向けてくる。


「エマ、もう少し静かにならないか?」


「え? 今嬉しさを表現しているんですよ! 今日お金が入ったら無茶なお務めしなくても贅沢して生きて行けるんですよ! うれしいな♪」


 ……そんなに戦うのが嫌なのか……。


 そんな事を考えていたら冒険者ギルドに着いてしまった。


 中に入ると相変わらず、人が割れる……。


 もはや、エンブレムはなくても顔を覚えられたようだ。


 俺は受付まで進む。


「査定は出来ているか?」


「レイ様、お待ちしておりました。完了しておりますが……少々問題が発生しておりまして……」


「問題?」


「はい、今回討伐されたゴブリンロードなんですが……今まで買い取った記録が無くて……金額がはっきりしないんです……」


「なるほど……」


「一応、本部が提示した金額が白金貨5枚なんですがよろしいでしょうか?」


「ダメです」


 間髪入れずにエマが断る。


 俺は静観する。エマの表情からかなり安い査定だと推測出来る。


 ゴブリンキングで金貨10枚だと言っていた事から大分高めに提示している気はするんだが……。


 合計金額が指輪の金額である白金貨50枚に届かないからだとは思いたくないな。


「しかし、ゴブリンキングで金貨10枚です……白金貨5枚でも十分高いと思いますが……」 


 まさしく、俺もそう思っていた所だ。


「良いですか? ゴブリンキングより強い個体ですよ? しかも200を超えるゴブリンキングを従えるぐらいです。今、さっき言っていた通り──今まで買い取りがなかった魔物です。その割に安くないですか? そして買い取りがなかった魔物はそちらは確実に欲しているでしょう?」


「──確かに必ず買い取るように言われてはいますが……そんな事を言われましても……」


「レイさんっ!」


「な、なんだ?」


「ゴブリンロードはどれぐらい強いのか教えて下さい!」


「そうだな……色付きトカゲぐらい強いかな?」


 正直、少し前の俺では勝てなかったからな。


「色付きトカゲって?」


「羽が生えてて馬鹿でかいトカゲだな。これの色が付いた奴だ」


 俺は『黒の書』からこの間の森で退治したトカゲを出す。


「「「ドラゴン!?」」」


 俺以外が騒がしくなる。


 エマは一瞬驚きつつも、悪い顔になり受付嬢に話しかける。


「色付きというと属性竜ですか……。受付のお姉さん、つまり属性竜と同格以上の魔物を白金貨5枚で買い取ろうとしてるんですよ? 素材が使えるかどうかは別として付加価値は付くはずです。どう考えても安くないですかね?」


「た、確かに……属性竜であれば白金貨10枚ぐらいはあります……ギルドマスターからは国を救った英雄に最大限の便宜を図るように言われています。同額で買い取り致しましょう。本部にはそうお伝えします」


 話がどんどん進んで行くな。


 ギルドマスターと言えば、このギルドで一番偉い人のはずだ。


 そんな人から便宜を図るように言われているという事はそれだけ今回は危険な案件だったという事はだろう。


 確かに強敵ではあったし、規模も大きかった。ベルがいなければかなり面倒臭い討伐だったのも確かだ。


「受付のお姉さん、ちなみに特別報酬はいくらですか?」


 エマは更に突っ込んで聞いて行く。


「特別報酬はゴブリンの討伐金額の上乗せになります。履歴には上位種も大量にありましたので、それらも通常より高く買い取らせて頂きます。他にも国から報奨金が出ていますのでそちらも足されます」


「悪くないですね……レイさん良いですか?」


「エマに任す」


 俺にはさっぱり相場がわからんからな。


「わかりました。ではお姉さん合計はいくらになりますか?」


「……はい……ゴブリンロード2体で白金貨20枚、ゴブリンキング235体分の素材代で白金貨23枚、金貨50枚。──合計が白金貨43枚と金貨50で、ここに──国からの報奨金が足されます。キリの良い金額にする為にゴブリンは高めに買い取り──白金貨50枚丁度にさせて頂きます」


 うおっ、マジかあの指輪を買える値段になったな……。


 国の報奨金も白金貨5枚以上はあるな。


「では、換金お願いします♪」


 エマも満面の笑みを浮かべている。白金貨50枚に達したし、これ以上は言わないだろう。


「ギルドに預ける事も出来ますがどうされますか?」


 ほぅ、そんな事も出来るのか……便利だな。


「必要ありませんので、現金下さい♪」


 いや、そこは一応俺に聞こうぜ?!


「金額が金額の為、少々お時間頂きますがよろしいですか?」


「待ってます♪」


 エマはもう指輪を買う事しか頭にないような気がするな。


 こんなご機嫌なエマは初めてだ……。


 対する受付嬢さんは頬が引き攣っているが……。



「レイさん、やりましたよ!」


「お、おぅ……良かったな」


 俺はそう返すので精一杯だった。



 あっ、そうだ──ついでにトカゲも買い取ってもらおう。初回分の俺とエマの滞納分の上納金払えるか怪しいし、生活費が心許ないからな。


 買い取りを追加でトカゲと豚肉の大人も頼むと受付嬢さんの表情は強張った。


 すまん、仕事増やして……。


 エマからは「金額が決定してから、更に素材出すとか鬼ですね!」と言われた。


 そんなつもりは一切無かったのだが、結果的にそうなってしまった……。

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