第36話 たらればの話
昨日は少し高そうな宿屋に泊まって飯を食った俺達は満足しながら眠りについた。
朝起きるといつの間にかベル達は『黒の書』に戻ってきていた……。
まぁ、トラブルの原因になるだろうし、しばらくは出さないでおこうと思う。
しかし……このリディア教の役職持ちは稼がないとダメだからヤバい奴しか残らないんじゃないのか?
どう考えても普通に稼げる金額超えてるだろ……。
俺も来年は金貨100枚か……なんか地獄の日々から抜け出してのんびり暮らしたいと思ってたのにな……。
まぁ、この間の討伐報酬が出たらエマの欲しがってた指輪もおそらく買えるだろうし、上納金もなんとかなるだろ。というかなんとかなってほしい……。
この呪われてるっぽい『黒の書』を外す手段が今の所ないんだよな……。
「さて、エマはさっき起こしても起きなかったし、たまには1人で散歩でもするか……」
俺は別室のエマを置いて外に出る。
宿は2日分取っているから問題ないだろう。
しばらく歩くと懐かしい場所に到着する。
この街に到着してアストラ教会の聖女さんと出会った場所だ。
草村に寝転がると──
アストラ教会に仕える人達が広場で食事を配り出す。
俺も初日にそういえばおこぼれに預かったな。あれは非常に助かった……なんせ金は無いわ、どうすりゃ良いのかもさっぱりわからん時だったしな。
これを見ているだけでもアストラ教とリディア教では大分違うと思う。
そんな事を空を見上げながら考えていると──
「あの〜」
聞き覚えのある声がした。
「えーっと、聖女さんだったかな?」
「覚えてくれてたんですね。嬉しいです。今日はどうされたんですか?」
有名人だし、そりゃ覚えてるだろ。
「ん? 暇だし、ちょっと寝転がってた」
「うふふ、そうなんですね。今日は良い天気ですからね。レイさんでしたよね?」
「おっ、お前も覚えてるんだな」
「当然ですよ! 命の恩人ですからね! 今更ですが、私の名前はローラです。よろしくお願いします」
聖女さんと言ったからか、名前を教えてくれた。
「あぁ、なるほど……。ローラね……よろしく。それで何か用でもあるのか?」
「そうですね……報告を聞きまして……貴方が村を──いえ、国を守ってくれたと。この度はありがとうございました。アストラ教会はリディア教会が関与してるとわかると神殿騎士を出し渋りまして……」
「代わりにお礼をって事ね?」
「そうです……しかもかなり危機的な状況だったとお聞きしましたので……。レイさんはお強いんですね? さすがはリディア様の使徒様です。あの時──私がしっかりしていれば……アストラ教会に入って頂いていたかもしれないだけに残念でなりません……」
「まぁ、アストラ教では俺の求めている
「いいえ、とても残念です。あの時引き止める事が出来なかった故に──私の騎士様はリディア教に盗られてしまいました。後でアストラ様より信託で叱られちゃいました……それに教皇様にも……」
教皇とやらだけでなく、神にも怒られたのか……。
「大袈裟な……。信託で怒られるんだな……俺はまだリディアの声は聞いた事ないな」
いつになったらリディアの声は聞こえてくるんだろ?
「いつか必ず聞ける日が来ますよ。──教皇様からレイさんが私の騎士様になると後で告げられたのです……出て行かれた後は必死に探したんですよ? あの時、レイさんの求める
「まぁ、こればっかは仕方ないだろうな。今はリディア教で漆黒支援術師になったけどな」
「……私がしっかりしていれば貴方と共に世界を巡り──貴方と一緒になれる日か来たかもしれません……少なくとも助けて頂いた時──いえ、これは今となっては言っても仕方ありませんね……」
「……俺は人助けなんて柄じゃ無い。俺は好きなように生きる……だから、ローラだったか? お前も好きなように生きたらどうだ? 別に聖女だけが生きる道じゃないだろ?」
「……私には聖女以外はできません……」
「決め付けるな。俺が得意なのはローラが見た通り──確かに前衛職だろう。今もバフは苦手だし効果は少ない──だか、俺は支援術師になりたいと思ったのはお前のお陰だ。アストラではなれなかったがな……」
「……そうですね……人は諦めなければ、何にだってなれるのかもしれませんね。もう貴方が二度と手に入らないと思うと残念です……」
なんだろ……ローラを見ていると懐かしい気分になるな。
──そうか!
母さん(優しい方)に似てるんだ。
「まぁ、見た目は凄い好みなだけに俺も残念だよ。また会う事があったらよろしくな? おっと、相方が来たわ。またな」
俺は立ち上がり、エマが来た方向を向く。
「レイさんっ! 何で置いていっちゃうんですかねぇ!? ってアストラの聖女!? あれですか!? 浮気って奴ですかねぇ!?」
「……お前何言ってんの? 浮気もクソも俺は独り身だが?」
「借金肩代わりして、私を買い取ってくれるんじゃないんですか!」
「……お前の頭の中覗いてみたいわ! ったく、ほら飯食いに行くぞ。じゃあなローラ」
「えぇ、楽しそうですね……いつかまた会いましょう……(私の愛する人)……」
肉、肉と連発するエマの元へ近付いきながら俺は手を上げながら歩いて行く。
最後ら辺はは聞こえなかったが、ローラがこの先──楽しく生きて行ってくれるといいなと思う。
「レイさん、早くペアリング欲しいですっ!」
エマの元へ到着すると、エマは俺の腕に抱きつきながらローラを見てそんな事を言う。
「お前の物欲ヤバいな……」
「しっつれいなっ! レイさんに変な虫がつかないようにしてるんですよ!」
「既にベルがついてるが?」
「その虫じゃねぇっすよ!」
そんなやり取りをしながら俺達は歩き出す──
チラッとローラを見ると涙を流していた。
きっと俺がアストラ教で転職出来ていたら俺の隣にいたのはローラだったのかもしれない。
まぁ、たらればの話だが……。
人の道なんてどこでどうなるかなんてわからない。
だが、これだけは言える。雰囲気が母さん(優しい方)に似たローラの見た目は俺の好みだと。
俺はちんちくりんのエマを見ながらそんな事を思う。
「何なんですかねぇ!? その顔は!?」
「いや、本当未来ってどうなるかわからんもんだなと……」
「きっと、レイさんの未来のお嫁さんは私ですね!」
「いや、好みじゃないから……」
「いつか巨乳になってるやるから今に見てろです!」
俺はいつものやり取りに苦笑しながら歩いていく──
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