第33話 見習いから脱却

 エマが顔を真っ赤にして怒った後は俺のジョブを見る事になった。


 俺の転職可能な職業ジョブは──



 基礎職業をすっ飛ばした職業ばかりだった……。一応凄い職業だと説明されたのだが全く興味が無い。


 俺はバフを極めるからな。


 例え──処刑人エクスキューショナー狂戦士ベルセルク邪神官アナテマなど失礼なものがあったとしてもだ。


 後、確か聖女さんが俺に教えてくれた時は聖騎士とかあったはずなのに、その名前が無くなり、今はになっていた……。


 これはもう俺自身が呪われているのでは? と思ったな。


 エマからお返しと言わんばかりに煽られた。


 相変わらず、前衛系の職業ジョブは大量にあるのに後衛系は少なかった……。


 召喚師サモナーとかあったので、一瞬これ戦わなくて済むし良いなとか思ったけど、母さん達より弱い奴を召喚した所で全く意味が無い。今のベルより強い奴が出てくる可能性もあるが、正直そんな賭けに乗りたくない。


 一応、魔法をぶっ放すだけだなら後衛職もあったが。


 とりあえず、今の職業の上位職らしき物があったのでそれにした。


【漆黒支援術師】になった。ついに『見習い』が無くなった!


 例え名前の先に『漆黒』とついて悪役っぽいとしてもな……。


 俺は【支援魔法】や【回復魔法】が使えたらそれで良い事にした。


 今回はちゃんとエマの説明を聞いた。


 この職は【結界魔法】、【付与魔法】が使えるとも聞いた。ちゃんと前に聞いておけば良かった。


 これで俺の戦術の幅は広がるだろう。



 ちなみにエマは上位盗賊ハイシーフに転職している。


 俺は追跡者チェイサー博徒ギャンブラーを推したんだが、全力で断られた。


 実はこれらの職業ジョブは珍しいらしい。


 きっと凄く強くなれると思ったんだ。しかし、エマから返ってきた答えは──


「どう考えてもストーカーとダメ人間真っしぐらじゃねぇっすかねぇ?!」


 ──だった。聞こえが悪いだけで俺の職業ジョブみたいに実は何か凄い性能を持ってるかもしれないのに勿体ないと思った。


 暗殺者アサシンも嫌がっていたな……リディア教はやっぱりヤバい集団だと思われたくないかららしい。


 要は自分が悪く見られない為に『上位盗賊ハイシーフ』にしたわけだ。


 何が出来るのか聞いた所……「不意打ち? 盗む?」とか言われた。正直どの職も変わらんと思ったが言わなかった。


 エマは世間体を気にしているが職業ジョブなんて、リディア教の一員という事実だけで何であっても同じだと思う。


 とりあえず、この薄暗い支部の中にある部屋の一室で模擬戦をして性能をチェックしている。


 エマを見る限り、以前より2倍近くは素早くなっているし強くなっている気がする。


 盗賊シーフ系の職は速さが極端に伸びるのだろう。


 ちなみに俺は魔力が増えたような気がする。


「なんで上位職なのに一撃も入らないんですかねぇ!? おかしいでしょ!」


「俺が強いからだろ」


「そのドヤ顔腹立つわ! 全く自信に繋がらない模擬戦なんて初めてですよ!」


「戦う時は心を折るようにと教育を受けているからな」


「誰ですかねぇ!? そんな酷い教育したのは!?」


「怖い方の母さんだな……。経典にも『心を折るまでやれ』ってあっただろ? まぁ、とりあえず強くはなっているから安心しろ。その攻撃力だと大人のゴブリンにはまだ勝てんから訓練は必要だな」


「その最低ラインが既におかしいんですが……」


「さて、俺のバフとデバフも経験してくれ──まずは──『弱体化』だ──って避けたら効果がわからないだろ?」


 エマは素早く動き回って俺の『弱体化』を避ける。


「──簡単に当たってやるもんですか!」


 むむ、素早い相手には簡単に当たらないのか……という事は──母さんと出会ったら避けられてしまうな……これはなんとかしないとダメだな。


 そうだ。『黒勢』を放出して、そこに『弱体化』を付与出来ないだろうか?


 試してみるか……。


 俺は黒い魔力を放出しながら『弱体化』を付与してみると、簡単に出来た。


 おぉ、【付与魔法】様々だな。


「……それ、何なんですか?」


「ん? 普通のやり方じゃ『弱体化』出来ないからこの黒いのに付与してみた。さぁ、避ける訓練だと思って頑張れ」


 俺はエマに向かって『黒勢』弱体化バージョンを放つ。


「──呪われてそうな物を放つんじゃねぇですよ!」


 失礼な!


 まぁ、見た目が呪われてる感じはするが……これは立派な【支援魔法】だ!


 捕まえようと黒い魔力を伸ばすのだが、必死に避け続けるエマ。


 魔力を動かすのって難しいな……しかも遅いし……。


 霧みたいに出来ないだろうか?


 あっ、出来たわ。


「こんなの避けれるかぁぁぁぁ!!!」


 これは『黒霧』と名付けよう。これなら一網打尽出来るな!


「まぁ、良く避けた方だと思うぞ? とりあえずどれぐらいの効果か教えてくれ」


「……めっちゃ体が怠いです……」


「良し、そのまま攻撃してくれ」


「怠くて動きたくないです……」


「この後、アクセサリー買いに行こうと思ったのにな……」


「……ふっふっふっ……ふはははっ! 私に不可能なんて無いんですよっ! 私の新たな力で渾身の一撃を受けるが良い──『疾風迅雷』──」


 二段構えで笑い出したエマは先程よりも更に速く、連撃を放って来た。


 これだけ動けるならさっきも動いてくれたら良かったのにな……正直、デバフをしているのに全く比較出来ない。だって、さっきよりもし……。


 物欲は限界を超えれるんだな。


「大分良い感じだな。後、お前そんなキャラだっけ?」


「うっさいです! 涼しい顔して避けてる癖に何言ってやがるんですかねぇ!?」


「まぁ、大人のゴブリンとそこそこ戦えるレベルだな。それでどれぐらい弱体化しているんだ? エマの動きがさっきより良いからわからん」


「判断基準がおかしい! まぁ、確実に4割は落ちてますね……」


 4割か! 1割増えたな! まぁ『黒勢』使ってるからな。ちなみに使ってない場合は2割程減る事は確認済みだ。


「おぉ、そうなんだな。解除するから次はバフだ──ほれっ! どうだ!?」


 これだけデバフが強くなったのならバフも期待出来るだろう。


「……相変わらずカスですね」


 な、なんだと!?


『黒勢』使ってるのに??


「いや、何かの間違いだろ?」


「……気持ち、前よりマシなんじゃねぇですかね」


 やはり、『黒勢』とバフは相性が悪いんだな……。


 せっかく──見習いから脱却したのになんか俺の想像と違う……。

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