第32話 エマの転職

 俺達は素材を出した後はまた受付に戻る。


「レイ様──査定が直ぐに終わりませんので、先に冒険者ランクをランクアップします」


「ん? ゴブリン如き狩り続けてもランクは上がらないと聞いたが?」


「……それは普通のゴブリンを狩り続けてもという意味です。集落──というか……これだけ大量のゴブリンを狩って、ゴブリンキング倒せる人がDランクっておかしいでしょう!?」


 なんかまた怒られたんだが……最初はこのベテランの受付嬢さんも丁寧に話してくれたのにな……。


「まぁ、飯食いたいんで早く終わらせて下さい」


「軽い! ……まぁ良いです。レイ様とエマ様は冒険者ギルド支部が勝手に上げれるBランクまで上げさせて頂きます」


 勝手に上げられる?


「『旋風』の奴らは上がらないのか?」


「支部ではBランクまでしか上げられない規定なのです。それ以上は本部で試験を受けなければなりません」


「ふーん。まぁ、あんまり興味無いしいいや。それで金はいつ貰いに来たらいいんだ?」


 高ランクの依頼受けなくても、そこそこ強い魔物の素材持って来たら金になるみたいだしな。まぁ、ランクが上がれば便利か。


「普通は喜ぶんですけどね……そうですね……2日後なら査定は終わっていると思いますので、それぐらいにお越し下さい」


「わかった。ゲイル──また会ったらよろしくな」


「あぁ、またいつか」


 俺とエマは『旋風』とその場で別れを告げて外に出る。


 そういや、飯奢ってもらうの忘れてたな。まぁ、いつか生きてたら会えるだろ。



 外に出るとエマがぷるぷると震えていた。


「どうしたんだ?」


「私が……Bランクに……」


「おぅ、良かったな! これで報酬の高い依頼が出来るぞ?」


 ランクアップして嬉しいのだろう。受付嬢さんもそう言っていたしな。


「……全然嬉しくない……」


「喜ぶのが普通らしいぞ?」


「いやいや、私何も実力変わってないですからね!? これランク詐欺なんですけど!?」


「ランク詐欺?」


「実力が見合ってないランクという意味です! 私がAやBランクの依頼受けたら絶対に死にますって!」


「俺がいたら死なないだろ」


「そりゃあ、レイさんが守ってくれるなら大丈夫なんですが──高ランクの依頼中にはぐれたらどうするんですかね!?」


「……根性?」


「そんなんでどうにかなるわけないでしょうが!」


「大人のゴブリン倒してたじゃないか」


「あんなの倒した内に入るわけないでしょ!」


「でも、討伐履歴に10匹倒した事になってただろ? ほら、実力じゃん」


「そうだった!? あぁ……何でこんな事に……それであの受付嬢は私をオーガを見るような目をしてたのか……」


「オーガを見るような?」


「鬼顔の大きい魔物です……」


「それは知ってる……こいつだろ? その大人のオーガならこの間狩っているぞ?」


「それですね……しかもその生首はオーガキングだし……」


「そうか……エマはこんな風に見られているんだな……可哀想に……」


「てんめぇ、失礼な奴ですねぇ!? こんなプリティエマちゃん捕まえて何言ってくれてるんですかねぇ!?」


「いや、だって自分でそう見られてるって言ってたじゃないか……」


「乙女心を少しはわかってくれませんかねぇ!? そこは、『そんな事ないぞ』って言うべき所でしょうが!」


「そんな事ないぞ?」


「今更な上に、疑問形!?」


「正直な話、全然似てないだろ……」


「私がオーガキングにそっくりなら自殺してるわっ!」


「そうだな……。つまり、オーガキング並に怖がられてるって言いたいわけか?」


「……そうです……はぁ……次の依頼で私は死ぬかもしれません……」


「大袈裟な……とりあえず、熟練度は上がったんだろ? 転職したら強くなれるんじゃないのか?」


 転職すると、その職業ジョブに合った能力値が上昇するらしいからな。


 俺も楽しみだ。


「──それですっ! さぁ、早く我らのリディア教支部に行きますよ!」


 俺は支部までエマに引っ張られながら連れていかれる。


「レイさん早く、起動させて下さい!」


「あぁ、あの板みたいな奴を使うんだな?」


 俺は司祭に任命された時に預かった板を水晶に近づけると光出す。


 なるほど、この板と水晶があればいつでも転職出来るのか……後でこっそり本に入れておこう。誰もここに来る事なんてないし良いだろ。バレたら返したらいいしな。


「さぁ、とっとと転職してやるですよ! えーっと、……ふむふむ、私は何に転職出来る様になったのかな──上位盗賊ハイシーフ暗殺者アサシン追跡者チェイサー? 博徒ギャンブラー?? 前半2つはいいとして……後半の2つは何なんですかねぇ!?」


「……」


「黙るんじゃねぇですよ!? これ後半2つは明らかにレイさんが原因ですからね!」


「いや、職業ジョブって神様に与えられた才能なんだろ? エマがそう初めて会った時に言ったじゃないか……だから素質があったんだよ……」


 俺は優しい眼差しを向ける。


「ぐはっ……まさかここでブーメランが来るとは……でも、今までこんな選択肢なんかなかったんです! 絶対レイさんのせいですよ!」


 俺の言葉に四つん這いになったエマは責任転嫁をしながら顔を上げる。


「……エマには神より与えられた素質に追跡者チェイサー博徒ギャンブラーがあるという事か……話をまとめると、つまり──俺を金の為に追跡するのと……俺についてくるのは博打という事か……酷い話だな」


「むっきぃぃっ! ちがぁぁうっ! その被害者顔やめてくれませんかねぇ?! 確かにお金も必要なんですけどね!? レイさんについて行くのも確かに博打ですけどね!?」


「自白してるじゃないか……」


「さっきのも本当なんですけど! 違うんですってば! 私は──レイさんがなんです!」


 やはり、金というのは大事なんだなーと思っているとエマの言葉を聞き逃す。


「え?」


「ち、ち、ち、違うんですぅぅぅ──今の無し! いや、無しじゃなくて──そうなんです!」


「すまん、聞こえなかった。何がそうなんだ?」


「てんめぇ! 私の覚悟を返しやがれです!」


「すまん、そんな覚悟のいる内容だったとは……もう一度頼む。今度はちゃんと聞く」


「ぜってぇ嫌です!」


 その後、怒ったエマにしばらく殴りかかって来た……当然ながら避けたけど。

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