第30話 戦闘民族になった

 あの後は大変だった。


 とにかくエマの悲痛な叫びは森に木霊した。


『旋風』のメンバーは可哀想な目で見て、騎士団達はドン引きしていた。


 それもそうだろう……。


「彼氏が欲しい! 巨乳になりたい! 私を愛してくれる人はいないんですかねぇ!?」とか大声で言っていたからな。


 そんなに巨乳になって愛してくれる彼氏が欲しいのならリディア教にいるべきではないと思うのだが……。


 昔に賢爺が言っていたダンジョンに行けば──もしかしたら巨乳になる秘薬だってあるかもしれない。


 それを伝えると大人しくなった。まぁ無いと思うけど……人の為に嘘をついたのは初めてだな。


 今はベス(子犬形態)が癒しになっているようで「私は巨乳になるんだ」と呟きながら寝ているが……。


「さて、村長達に連絡しないとだな……」


「司祭殿、既に早馬にて連絡を入れております。後──これをお返しします」


 俺の呟きに騎士団長が答えながら、エンブレムを返却する。


「あ、そうなんだ。ありがとうな」


「いえいえ、貴方のお陰で国は救われました。これぐらい当然です。しかし……」


 いきなり深刻そうな顔をする騎士団長。


「何か問題でもあるのか?」


「いえ、問題というか……あの村は戦闘民族か何かでしょうか? 襲い来るゴブリンを騎士団顔負けで葬っていましたが……」


 そこまで活躍したのか……とても良い事だな。ちょっと数が増えすぎたから自衛出来たらいいなぁぐらいのつもりで鍛えただけなんだけどな。


「おっ、さっそく訓練の成果が出てるじゃないか」


「……まさか、司祭殿が?」


「そうだ。生き残る為には人に頼るだけじゃダメだろ? 自分で足掻かないとな?」


「これがリディア教の教え……」


 いや、リディア関係ないんだけど……。


 これって俺の行動が全てリディア教に反映されるんじゃ……。


 これ以上は考えるのやめよう。



 しばらくすると何故か村人達と騎士団達を戻ってきた。


 騎士団の人達は落ち込んだ顔をし、村長と村人達の顔は誇らしく見える。


「村長おかえり。こっちは無事に終わったぞ? そっちも自衛ぐらいは出来たと聞いたぞ?」


「さすがレイ様です。我らもレイ様が教えて下さったお陰でゴブリン如きは殲滅ですぞ? はっはっはっ」


 村長達には俺が剣王流の技の一つである、一ノ太刀『断』を教えていたのだが──ちゃんとそれなりに使えているようだ。まぁ、不完全な技でもゴブリンぐらいなら一刀両断出来るだろう。


「俺──帰ったら真剣に訓練頑張るよ……」


「「「あぁ……俺もそうする……」」」


 などと騎士団達から聞こえてくる。


 きっと村人達に活躍の場を奪われたのだろう。


 人々を守る職業だ。是非頑張ってもらいたい。


「レイさん! 私もちゃんと倒しました!」


「レイ兄! 俺も俺も!」


 ララとラキも誇らしげだ。


「お前らもついに一人前だな。奢る事なく精進しろ」


「「はいっ!」」


 うんうん、これでこの村も安心だな。



「普通の村が戦闘民族に……」


「おっ、エマ復活したのか?」


「……なんとか」


「まぁ、なんだ……彼氏ぐらい直ぐに出来るって……たぶん」


「そこは断言してくれませんかねぇ!?」


「胸が小さいのが好きな奴も世の中たくさんいる……はずだ」


「全然慰めになってないし!」


「いやだって、リディア教にいる時点で彼氏作るの難しくないか?」


「……抜けて彼氏を作れと?」


「それしかないだろ……」


「……今更一般人になんてなれませんよ。それに私が抜けたら──レイさんが困るでしょ? (どうせ悪魔いなくても連れ戻されるし……)」


 最後らへんが小声で聞き取れなかったぞ?


「まぁな……エマがいると色々助かるし、賑やかだな」


「だから、前も言ったじゃないですか……ずっと一緒にいるって……」


「……ふん、好きにしろ……」


「またまた照れちゃって〜。可愛いですね」


「俺のどこに可愛い要素があるのやら……さて、全員集まったし飯でも食おう」


「はい!」



 俺達は豚テキパーティを楽しみ、次の日にはギルドへ向かう予定だと村長に伝えた。


 依頼の報告をする為だ。


 村の皆は大層残念そうにしていたし、ララやラキも付いて行きたいと言っていたが──やんわり断った。


 この村はもう大丈夫だろう。


 チラッと村人達の実力を見たが……ゴブリンやオークぐらいなら普通に狩れる技量があった。村長に至っては下手したら大人のゴブリンに勝てるかもしれないな。


 たった一つの技を教えただけでここまで強くなった事にびっくりはしたが……。


『剣王』のおっさん元気にしてるかな?


 会ったら扱かれるから会わないけど。


 何はともあれ、リディア教に皆入ってくれたお陰で布教も成功したとみていいだろう。


 後は次の年の上納金を貯められたら問題ない。


『黒の書』に入った素材を売ったらそこそこ金になるだろう。大人のゴブリンは金になると聞いているしな。


「レイさん、熟練度が最大になってますね。転職出来ますよ? まぁ、私もなんですがね。それに報告書書かないと……」


 とエマも言っていたし、俺ももっと援護力を上げたい。


 何の報告をするのか気になったが、またわかるだろう。


 とりあえず今は豚テキパーティを楽しもう。

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